水木しげるさん描く福島原発 32年前のイラスト出版へ(朝日新聞 8月16日)32年前、フリーライターの堀江邦夫氏が、美浜、敦賀、福島第一原発の下請け労働者として働き取材した体験ルポがメインで、水木先生は、堀江氏の証言を基に挿絵を描かれているのでマンガではありませんが、この挿絵も細部まで細かく描かれ、見えない放射能による被曝の恐怖と過酷な労働環境下に身を置く原発作業員の心象をパイプなどに浮かび上がる不気味な目の数々に置き換え、どの挿絵もなかなか迫力のある不気味な絵になって見事に表現しています。96ページの本ですが、この本を読んで感じた虚しさは、筆者が32年前に自ら原発下請け作業員をして潜入した頃から、原発労働と原発の本質がほとんど何も変わっていないということです。震災によって崩壊した福島第一原発だけではなく、全国に存在する原発での運転停止中に行われる定期検査のたびに、ほとんど役に立たない重装備の防護服の暑さと頭痛と吐き気に苦しみながら、下請け労働者がパイプが入り組む狭く暗い作業現場に赴き、時にはパイプやバルブの隙間から蒸気や汚染水が噴き出す中、それによる放射能による被曝の恐怖と戦いながら、ヘドロ除去やバルブの取り換え作業など、私たちの想像を超えた非情とも言えるほど過酷な労働に従事しています。それが全国の原発で人知れず何十年と行われ、例え負傷しても労災申請を出すと原発内で事故が起きたことがマスメディアに知られてしまうので、労災隠しが頻繁に行われるという現実、どんな事故が起きても闇へと葬り去られる労働者たちの犠牲の基に私たちの豊かな生活が成り立っているということに気付かされます。震災と原発の事故が無ければ再び日の目を見ることが出来なかった貴重な作品で、ほとんど外部には出てこない原発作業員の現実を知っておくためにも、ご一読をお勧めします。