今を遡ること21年前、私が島本和彦先生のマンガの虜になるきっかけを作ったのが『逆境ナイン』でした。その続編として『ゲキトウ』が講談社『イブニング』で、2003年に連載開始されました。主人公である不屈闘志(ふくつとうし)が、高校を卒業してからプロ野球に挑戦するストーリーかと思いきや、不屈がプロ野球選手を引退して10年後のお話です。しかも、引退してから10年経つのに、またプロ野球に再挑戦するべく合同トライアウトに参加する不屈。なぜ、もう一度、プロ野球選手への道を志すのか?それには、不屈の子どもが関係しているのですが・・・。詳しく書くとネタバレになるので、この辺で止めておきますが。序盤からじわりじわりと盛り上がって行き、不屈闘志と言えば、忘れちゃいけないのが投げる魔球「男球(おとこだま)」自分自身の魂をボールに乗り移らせて投げるのです。ボールにギョロリと目が出てきて、打者を睨みつけ、「ウオォォーッ」と叫びながら迫ってくる。しかも、ボールには当然意志があり、右に曲がったりと上に上がったりと自由自在。これまでのスポ根野球漫画にも「魔球」は数多く存在してきたけれど、これほど恐ろしい魔球は存在しないでしょう。この魔球で高校野球地区大会決勝9回表109点差のゲームを逆転勝ちしたぐらいですから。そんな魔球を投げていた不屈が、この『ゲキトウ』で見せた魔球が「樹齢千年(ジュレイサウザンド)」↑今度は、魂以外にも自分の歩んできた歴史をも球に込めたため、バッターには、まるで樹齢千年の巨木が迫ってくる錯覚を与える。これを見たときは、もう感動しました気分が一気に高まりました。ああ、やっぱり島本和彦はスゴイことを平然と描いてしまうと。新魔球も登場し、トライアウト編が終わり、これからプロ野球に復帰し、どのように話が進んでいくのだろうと期待していたら、雑誌では「次号は休載します」となっていました。次号休載なので、次々号を買ってビックリ!どこにも『ゲキトウ』が載っていなかったのです。読者投稿や編集部のメッセージなどを載せているページの最後に、島本和彦氏「ゲキトウ」は17号にて第1部終了となりました。発表が遅れて申し訳ありません。現在は長期構想中です。ご理解の程よろしくお願いします。マンガでの第1部完といえば、そのほとんどが第2部をスタートすることは永遠にありません。ようするに、諸事情でそのまま打ち切りになったたった3行の告知でひっそり終了した全16話の『ゲキトウ』なのでした。コミックスは連載中に9話まで収録された第1巻が発売され、連載は終了したものの、残りの7話で第2巻が発売されると思いきや、なぜか第2巻は発売されることはありませんでした・・・。盛り上がってきた物語の続きも「樹齢サウザンド」も多くの人に読まれることもなく、そのまま封印された状態になってしまい、島本ファンの間では「2巻は出ないのか」と毎年必ず話題に上っていたのですが、本日、6年ぶりに全16話収録の完全版として発売されました。ああ・・・これで、ようやく雑誌は読まずコミックスで買う派の島本ファンや、多くの人の目に、この作品が読まれることになるのです。島本作品に欠かすことのできない熱い名言も多いですらから、本当に日の目を見て良かったです。完全版のあとがきに、「続きが読みたい!」と島本先生自身も語っているように、私も続きが読みたくなりました。この後の構想もちゃんとあったということですし、島本先生は毎年のコミケにも出店されているので、機会があれば同人誌で続きを描いて頂けたらなぁと思いました。