最近、立て続けに出版された茂木健一郎さんの新書『思考の補助線』(ちくま新書) と『すべては音楽から生まれる』を読みました。同じ人が書いたものとは思えないほど「陰と陽」相反する世界観が出ています。前者の『思考の補助線』は、内面に問いかける禅問答のように哲学的で、現代の「分かりやすさ」ばかり求める思想風潮に違和感や憤りを感じている茂木さんが、風穴を開けようとする姿が文章から感じ取れ、思考することの情熱の希薄化や現在の批評精神の安っぽさについては、ネットで文章を書いている者にとっても反省すべき部分が多々あり、(ただ、この反省も「喉もと過ぎれば熱さ忘れる」で、 同じ失敗を繰り返すのですが。)久しぶりに読み応えのある内容が濃い新書に出会いました。後者の『すべては音楽から生まれる』は、茂木さんが音楽を聴く上で体験したことを元に、人間の生きていく上で欠かせない音楽の魅力の真髄や、音楽を通して得られる脳のクオリア(質感)について、分かりやすく解きほぐし、誰もが楽しく一気に読める一冊です。「分かりやすさ」ばかり求める思想風潮に違和感や憤りを感じつつも、その「分かりやすさ」を求める人々の要求に情熱的に応える茂木さん。その世界の中に身を投じなければいけないジレンマは以下ほどなのでしょうか。