オタキングの岡田斗司夫さんの書いた新作『「世界征服」は可能か?』(ちくまプリマー新書)を読みました。過去のマンガやアニメや特撮や映画に登場した「ショッカー」とか「死ね死ね団」のような秘密結社が行おうとした「世界征服」を元に「世界征服とはなんぞや」と説いた初の世界征服学です。 誤解されるといけませんので断っておきますが、この本を読んでここで取り上げるからと言って、一度も世界征服をやりたいと思ったことはありませんので。本書では、まず世界征服をタイプ別に分けています。その1「人類の絶滅」 『宇宙戦艦ヤマト』のガミラス星人のように、地球人類を絶滅させ新たな帝国を築き上げたいタイプ。その2「お金が欲しい」 『ヤッターマン』のドクロベーのように、とにかく世界中の富を一人占めにしたいタイプ。その3「支配されそうだから逆に支配する」『機動戦士ガンダム』に登場したジオン公国ようなタイプ。これは戦いに負けたことで悪とされてしまういわゆる大日本帝国のようなものです。その4「悪を広める」『ドラゴンボール』のピッコロ大魔王ように、悪と恐怖に満ちた世界を作りたいタイプ。番外編 目的が意味不明『北斗の拳』の聖帝サウザーのように、子供を奴隷にしてピラミッドを作らせるが、目的が達成されたとして、その後は何がしたいのか分からない、具体的なビジョンが見えてこないタイプ。『仮面ライダー』のショッカーも世界征服が目的ですが、征服後には何がしたいのかよく分からないので、このタイプです。 本書の中で上手い表現だなと感心したのは、アニメなどのいわゆるヒーロー物の正義の味方と悪の秘密結社の関係は、ボケとツッコミが成立した“漫才”だったということです。毎回、○○計画と悪巧みを計画実行し話を進める悪役がボケの立ち位置で、正義の味方の方は、その行動に対して、「おいおい、なんでやねん!」「ええ加減にしなさい!」「しまいにどつくぞ!」とツッコミのように、戦いをして悪を成敗してお話が完結するということです。岡田斗司夫さんは『BSアニメ夜話』というトーク番組のために『ヤッターマン』を百話以上見続けたという荒行の中で、この作品は、一見するとヤッターマンの二人が主人公のようでいて実はドクロベーと悪の三人組ドロンジョ一味こそが主人公的役回りの作品で、そしてボケとツッコミの関係性を発見したそうですが、これは『ヤッターマン』に限らずどのヒーロー物でも、このボケとツッコミは成立していますし、悪役が存在してこそ正義の味方は活躍できませんので、ある意味でどの作品も悪役こそ主役のようなものだと感じました。 これを読んで思ったのが「正義とは、悪とはなんぞや?」です。正義なんてものは、当たり前の話ですが、所詮は個人個人の価値観や尺度や考え方や、その時代の流れで変るもんだということです。戦争ならば、勝ったほうが「正義」で負けた方は「悪」と定義されたり、例えば、現在、議論が活発な捕鯨問題も、いつの間にか捕鯨国=「悪」で、反捕鯨国=「善」という図式で縛られがちですが、昔から捕鯨文化のあった国からしてみれば、科学的データを基にして捕鯨賛成の賛同を得ようとしても、そのデータを無視する反捕鯨国のほうが、話の通じない「悪」のような感じで見てしまいますし、反捕鯨団体の『グリンピース』なんて、捕鯨反対なのですから自分達の行動こそ正しいのだとばかりに、調査捕鯨船に体当たりを仕掛けてくるなどといったような、ヘタをすれば死人が出るほどの強固な妨害活動を平気で行ってきますので、私たちから見てみれば、彼らの行動こそ反社会的な悪人そのものですが、反捕鯨思想の側から見てみれば「よくやった」と賞賛する人も居るでしょう。こんな感じに、考え方が違えば正義も悪も代わるということです。そして、それと同時にその考え方は、正しいも間違いもないということでもあるので、お互い完全に理解しあえることもほとんど無いということです。 あと、第3章に書いてあった、「争いのない平和な世界」で皆が同じ価値観で暮らすという俗に言うジョン・レノンの「イマジン」のような世界も、世界中の軍隊を潰し、みんながケンカをしないように、一つの価値観に世界を染め上げると言うことですから、ある意味では世界征服である。というのは頷けました。 他には、あなたはどの支配者タイプ?な「性格診断別世界征服」なんて章もあったりで、最後までたいへん興味深く読めました。 そして、読後もっとも感じたことは、悪の組織を作るには、まず法に触れない方法で人材を確保して、人材を教育するためや設備投資のために、銀行強盗など悪事でお金を稼げば、組織完成の前に警察に逮捕されたりして、壮大な計画が台無しになる恐れもあるので、法に触れない方法で資金の調達して、人材や資金調達後は、アメリカの軍事衛星にばれないように秘密基地を作ったりなど大変で、例え組織や基地が出来たとしても、今度は、大多数の価値観にそった正義の側に潰されるかもしれないし、「恐怖政治」の下に粗末に部下を扱ってしまえば、部下が逃げ出して、せっかく時間と金をかけて教育した人材が無駄になったり、いつの日か部下から裏切られ、自分が殺されるかもしれないとビクビクして生きなきゃならないので、部下には気持ちよく悪事を働いてもらえるようにゴマをすらなきゃいけないなど何かと苦労が尽きないので、「世界征服なんて妄想で計画したとしても、 肉体的・精神的に苦労するだけで実行に移すもんじゃない。」この一言に尽きますね。誤解されるといけませんので、もう一度断っておきますが、一度も世界征服をやりたいと思ったことはありませんから。