食肉用に出荷される牛の狂牛病感染の有無を調べる精密検査が、本日から全国で一斉に始まった。肉骨粉の一時停止などと併せ、これで国の主要対策が出そろう。牛肉が丸ごと疑わしく受け止められがちな空気の中で、検査の果たす役割は何よりも重要だ。「安全」の見極めをすることで、消費者や市場の不安を解消するとともに、生産者の苦境を打開しなくてはならない。それだけに徹底した検査とその精度が問われる。一次検査の方式は感度を高くし、広範囲に網を張るのが目的だ。その方式ゆえに、実際は「シロ」でも、疑陽性と判定される場合がある。そこを互いに理解しておかないと新たな波紋を広げかねない。先ごろ、該当するケースが東京都の食肉市場であった。情報伝達の遅れも加わり、混乱に拍車を掛けた経緯を今後の教訓とすべきだろう。今後、県内四カ所を含む全国百十七カ所の食肉衛生検査所で、チェック態勢が一段と厳しくなれば、相当数の検体が一次的に検査で引っ掛かるとみられる。この検査の最も重要な役割は、安全確認されたものしか流通していないという信頼感を我々に与えることである。ルールが厳守され、だれにも情報が十分行き渡っている限り、心配は徐々に遠のくのではないか。千葉県で発生した国内第一号の狂牛病の感染経路は、今も判然としていない。病原体とされるタンパク質の異常プリオンを含む肉骨粉を食べたため、との見方が有力である。農水省は96年に、牛向けの肉骨粉利用を自粛するよう生産者に指導している。ただ、あくまで指導であって禁止でなかったため必ずしもきちんと守られていなかった。このプリオンは微量でも感染力が強く、しかも潜伏期間はまちまちである。新たな感染例はいずれ浮上すると心しておかなければならない。既に肉骨粉の輸入、製造、出荷を全面的に一時停止する措置が取られた。牛の解体の際、異常プリオンが集まりやすい危険部分も二次利用せず、焼却処分する。これまでの研究では、そうした除去や検査が徹底されていれば、普通の肉や牛乳は大丈夫といわれる。人にうつる可能性は、極めて低いとされている。過敏に走らず、私たち消費者の沈着な対応も求められる。狂牛病問題を考える上で、もともと草食動物の牛のくず肉などを飼料化し、共食いさせる近代畜産の陰の面を見逃してはいけない。複雑な要素がさまざま絡む。封じ込めは容易でないと受け止め、長期的な構えで取り組んでいかなくてはならない。