『オルガニスト』 山之口 洋 新潮文庫 を読んだ。
風邪引きで寝込んでいる時の道連れに選んだ1冊だったのだけれど
風邪の友としては「難しくもなく」「つまらなくもなく」
ちょうど良い相棒だった。
ここでいう「オルガン」とは
学校の音楽室にある「オルガン」のことではなくて
教会や、コンサート・ホールでしかお目に掛かれない
「パイプオルガン」の事である。
題名になっている「オルガニスト」とはは主人公の親友であり
オルガニストになるべくして生まれてきた天才だった。
たとえるとすると……
『ガラスの仮面』で言うこところの北島マヤであり
『ヒカルの碁』で言うところの進藤ヒカルであり
凡人が努力しても行き着くことのできない世界に住んでいる人間である。
数年前、私はクラッシック音楽に夢中だった時期があって
オルガンは3度ばかりコンサート・ホールで生演奏を聞いたことがある。
マリー・クレール・アランという女性オルガニストの演奏を1度と
↑春の陽だまりを感じさせる優しい演奏だった。
トン・コープマンという男性オルガニストの演奏を2度ばかり。
↑真面目という言葉を音楽にしたかのような襟の正しい演奏だった。
この頃は滅多に聞かなくなってしまったけれど
CDも何枚か買い揃えてしまうほど「ハマっていた」時期があったので
なんとなくスムーズに読みすすめる事ができた。
『オルガニスト』は分類的にはファンタジー小説という事になっているけれど
ちょっと別の角度から見ると「ホラー」とか「サスペンス」に近い小説で
「謎解き」の部分が多くあるので
ストーリーを語ることが出来ないのが残念なのだけれど
ちょっと「印象」だけでも書いてみようかと思う。
パイプオルガンが奏でる音楽は、宗教をベースにしたものなので
「なんとなく厳粛な感じ」だったり「神聖な感じ」だったりするのだけれども
不思議と「血なまぐさい場面」が似合ってしまうのも事実なのである。
↑ゴシック・ホラー映画のBGMなどで、こっそり活躍していたりするし。
「善・悪」「生・死」「明・暗」「聖・邪」といった
まったく対極に位置する物(感情)は、それぞれを突き詰めていくと
行き着く先は「突き当たり」でも「果て」でもなくて
正反対のところへ通じているような気がする。
メビウスの輪が無限であるように、ぐるぐると繋がって回っているような……
『オルガニスト』の軸になる「天才・オルガニスト」の青年は
みずから「音楽になりたい」と口にするほど
オルガンのことしか考えられない人間で
生きること=オルガンを演奏すること……であり
彼のオルガンへの想いは
突き詰める果てを知らぬほどだったりするのである。
で。
彼の「想い」が物語を悲劇へと発展させてしまうのだ。
彼は人間として超えてはいけない一線を越えちゃったりするのだ。
無限ループをたどり「まったく正反対のところ」へ突き進んだ彼は
人間ではなくて、完璧なオルガニストとして生きることになる……
「破滅的なもの」というのは
実生活では関わりたくないというのが本音なのだけれど
芸術的な物や、非・現実的な物となると、破滅的なもの」に惹かれてしまう。
自分自身が凡人だから、天才という存在に惹かれてしまうのかも知れない。
↑天才には破滅型の人が多いですしね。
壮烈で、哀しくて……それなのに何故か心惹かれた1冊だった。
風邪っぴきの時に読んだ本の感想を書いたところで
風邪っぴき三部作(自分で勝手にそう読んでいる)は堂々完結。
↑ちなみに一部は『自分の居場所』 二部は『アブトロニック』
そんな、こんなで、今日の日記はこれにてオシマイ。