隣りで仕事をしていたCADオペレーターの相棒が唐突に呟いた。
「あのさぁ〜白馬に乗った王子様が現れてさぁ〜」
横を見ると彼女は「遠い目」をしていた。
私も思わず「遠い目」になってしまった。
「白馬に乗った王子様」なんてフレーズは文章で読むことはあっても
直接、人の口から聞いたのは10年ぶりくらいだ。
「で、白馬に乗った王子様が、なに?」との私の問いに相棒は続けた。
「お嬢さん。もうこんな仕事はやめて私と一緒に行きましょう・・・って言うねん」
相棒の目は見事なまでに、すわっていた。
アルコールも飲んでいないのに。
「私、コーヒー入れてくるから休憩しよ。な?」
私は仕事の手を止めてクリープを山盛り入れたコーヒーを入れ
明治製菓の『ガルボ』机の引出しから出動させた。
「あ〜〜。もぅ。仕事するの嫌やぁ〜〜〜」
コーヒーを飲みながら相棒は言った。
そうだよね。やっぱり「ナチュラル・ハイ」とか
「逆ギレ」状態だったんだよね。
そうでなければ「白馬に乗った王子様」なんてフレーズ出てこないよね。
29歳の私と、31歳の相棒はガルボを齧りながら溜め息をついた。
仕事、キツ過ぎるんだよねぇ。
山積みになった図面を片付けてくれるんだったら私・・・
「白馬に乗った王子様」でも
「ラクダに乗ったエジプト商人」でも
「象に乗ったマハラジャ」でも
「ハーレー・ダヴィッドソンに乗ったオヤヂ」でも
「ライオンに乗ったアマゾネス」でも
ついて行っちゃうかも知れない。
マジで。
そんな、つまんない想像をして、心の中で「ぶふふっ」と笑ったら
ちょっと肩が軽くなったような気がした。