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2003年12月19日(金) さよならの日2日目

やっと迎えた病院での朝。
廊下から次々と出勤してくる病棟の看護婦さん達の
元気な挨拶が聞こえてきます。


外来診察前に先生がやってきて回診。
そのあと診察室で診察し、子宮の状態をチェック。
退院の許可をもらいその後の説明を受けました。

体は出産したのと同じ状態なので
今後の生理はいつくるかはわからないこと。
今回のことで次回の妊娠の時は子宮の頸管を
縛る処置をした方がいいかもしれないこと。

それを聞いた私は思わず聞いてしまいました。

「私は・・・今後も妊娠を望んでいいんでしょうか?」

前回のこととこれで2回目の流産です。
もうあきらめなさい、と言われるのを覚悟していたのです。

先生はあっさり
「3ヶ月以降なら可能ですよ。
 むしろ体が忘れないうちに間を空けない方がいいかもね。」


正直今は次のことなんか考えられないのですけどね。
不謹慎かと思われたかもしれない。
でも私の中では今回のことは「無念」の何ものでもなかったのです。
前回の流産を乗り越えて、安定期に入るまで順調で
やっと心から赤ちゃんを迎える体制を整えていたはずなのに
こんな結果になってしまってだーりんに申し訳なくて。
私が若かったら昨日の今日で
こんなにせっかちな質問なんかしなかったでしょう。



そのあとすぐだーりんに電話して迎えに来てもらい
清算を済ませて病院を出ました。
ただ、まっすぐ帰るわけにはいかないのですけどね。

今回は死産扱いなので
きちんと私達で赤ちゃんを弔ってあげなくてはなりません。
死産届と赤ちゃんを受け取りその足で区役所へ。

本当は赤ちゃんが眠るその小さな箱を
ずっと抱いていてあげようと思ったのですが
だーりんが車に乗る時
「本来乗るはずだったところに寝てなさい。」と
後ろの座席に箱をそっと置いたのです。
チャイルドシートこそまだ用意していませんでしたが
だーりんなりの思いだったのかもしれません。

区役所に届けを出し、埋葬許可証をもらう手続きをしました。
私はどうしてもその場にいられなくて
離れたところの椅子に座って待っていました。

しばらくしてだーりんが戻ってきて
お骨を拾いますか?と聞かれたんだけど、どうする?って。

私はとっさになぜか首を横に振ってました。
もし骨なんて傍に置いたら思い出してしまう。
だーりんがまた窓口に戻ってから
なぜか涙がぶわーっとあふれてしまって
人もたくさんいるし見られちゃうと思い抑えてたんですけど
だーりんが書類をもらって戻った時には
もう抑えようがなくなっててだーりんを慌てさせてしまいました。


「お骨なんて・・・残るの?あんなにちいちゃいのに・・・」

110グラムしかないちいちゃな体なのに
骨を拾うだなんて・・・あんなにちいちゃいのに。
あのちいちゃな姿を思い出し、切なくなってしまったのです。

「うん・・・だからね。残らないかもしれないから
 どうしますか?って言われたんだよ。」


そのあと火葬場までの道のりは
なんとなくお互い無言になっていました。

今回だーりんの前で泣いたのはこれが初めてです。
昨日もだーりんの前では泣きませんでした。
どうしてかわかりませんけど
泣いてしまったらきっと立ち直れなくなりそうで怖かったから。
そんな姿をだーりんに見せて心配かけさせたくなかった。
だーりんもあえて私には慰めるような言葉や
泣かせるような話題には触れないでいてくれた。
今の私にはそうしてくれた方がありがたかった。
悲しみにくれてしまうと、ガタガタと崩れていきそうで。
泣きたくなかった。耐えていたかった。

火葬場に着いて書類を出し受付。
22週以前の赤ちゃんは
日を決めてまとめて火葬になるそうで
30日になるとのこと。

その時まで赤ちゃんをお預かりしますと言われて
小さな箱を渡し、お願いしてきました。


だーりんは夜勤だったので
家に戻ってから少し休みました。
私も昨夜はほとんど寝ていないので3時間ほど眠りました。


だーりんが夜勤に行ったあと
一人でいるといろいろ考えてしまいそうだったので
真夜中に掃除をしてみたり
ゲームで気を紛らわせたり

とにかく何かしていないといられない状態で
眠気がくるまでベッドに入れませんでした。

一息つけてソファに座ると
ツーンとした痛みが胸に走ります。
おっぱいが張ってきているのです。
吸ってくれる赤ちゃんは居ないのに。
ちゃんと体はお母さんになってるのを感じて
また思い出したように涙があふれてきます。

そして泣きながら
マタニティウエアや下着などをまとめて
クローゼットの奥の方にしまいこみました。

結局体が疲れてやっと眠れたのは朝方。
それでも3時間もすると目が開いてしまい
夜勤明けでだーりんが帰ってきたときは起きてました。
前まではあんなに眠気が常にあったのにね。



仕事はしばらく休むことにしました。
一ヶ月の休職です。
仕事に復帰して忙しい方が、逆に気が紛れるのかもしれませんが
体よりも周りの優しさや同情に触れるのが精神的に
今はつらいのです。少しの間だけそっとしていて欲しいのです。


こうやって淡々と日記を書いているのですが
正直、まだ自分自身もピンときていないのです。
お腹に居ないのがまだ信じられないというか
寝て起きたら夢だったりして、とか思ったりもしています。

でもすでに今日、お腹周りがきつかったジーンズがラクにはけました。
お腹は確実に小さくなってしまったのですね。


今の正直な気持ちは
「悲しい」というより「くやしい」のです。

もしもっと気をつけていれば・・・
もしもっと早く病院に行っていれば・・・
もしかしたら・・・今も元気にこのお腹に居てくれていたかも・・


そんな気持ちがあります。
でもそれをだーりんは考えるな、と言います。
もうそれを悔やんでも仕方ない。
誰も悪くない、誰のせいでもない。
自分を責めてはいけない。

だーりんは優しいです。
言葉はなくても思いは感じます。
私が崩れてしまわないように一歩距離を置いてくれています。
赤ちゃんの事はほとんど触れないでいてくれます。
私はそれを冷たいとは思いません。
だーりんなりの、優しさなんです。
いつものように、何もなかったように明るく振舞ってくれる。
それで今の私を保っていられているような気がします。


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