今日は夜勤です。



うちの病棟にはTちゃんという患者さんがいます。

もう５０歳になるのですがうちでは若い方です。
脳障害があるので体は動かずゴハンも流動食です。
寝たきりなので関節も萎縮してしまって
毎日リハビリしているにもかかわらず固まってきています。
こちらの言うことも理解できて話はできるのですが
発音がはっきりせず
私たちは言いたいことがわかってあげられなくって
彼女をイラつかせて怒らせてしまうこともたまにあります。



でも、とても元気です。



元気、という言い方は変かもしれないけど
とにかく彼女の「生きる」力強さを感じるんです。

いくら熱を出しても
いくら痰がからんでも



回復力がすごいんです。



毎日決まったカロリーの流動食と
一日１０００mlの水分だけで


彼女は生きているんです。


人間の生命力ってすごいんだなと
彼女から教えられています。




今日の夜勤では
Tちゃんが熱発した、咳がひどくて痰が出せない
下痢もひどくて赤ちゃんのような未消化便だ
と申し送りがありました。


熱発と痰がからむことは
彼女にとっては命とりです。

熱が上がることによって、食欲が落ちます。
水分が充分にいかないと、熱がなかなか下がりません。
解熱剤の座薬も、使えないからです。

咳が出ることによって、その水分もうまくとれなくなります。

そして自力で痰が出せない為、管を入れて
私たちがとってあげなくてはなりません。
その行為は、彼女の体力を奪います。



３時間おきに、検温します。
ずーっと３７〜８℃をいったりきたり。
なかなか、下がりません。

喉の奥で痰がからんでゼロゼロいっています。


「ごめん、Tちゃん。苦しいよね。」


そんな気持ちでサクションで痰をとります。


真夜中の巡回。
Tちゃんは眠らない。
なにか口元がごにょごにょ動いています。
何？と私は彼女の口元に耳を近づける。

しばらく理解するのに時間がかかったけど



「車椅子。向こうに行く。」



彼女は水分を経口摂取するときに車椅子に座ります。
そしてその時は必ず詰所前のホール、
彼女の言うところの「向こう」なんです。



彼女は水分を摂りたいらしい。



熱があるので、どうしようか悩んだけれど
彼女の要望に応えることにしました。



やはり咳が出るのでなかなかうまく飲めない。
それでも

うまく動かない、萎縮してしまって「グー」のまんまの右手を
コップにあてて
Tちゃんは必死に自分で飲もうとしている。


がんばれ、がんばれTちゃん。




彼女は必死で生きている。
生きようとしている。





明けて日曜の朝、
彼女の熱は下がりました。
下痢も、おさまりました。
念のため、点滴は２、３日持続しますが
ヤマは越えました。



彼女はなにもかも介助が必要で一番手がかかります。
思うようにならない為ヒステリーにもなります。
たまに、手が出て殴られたり、髪も引っ張られたりします。


それでも、必死で生きている
生命力にあふれているTちゃんは



私たちスタッフのアイドルです。

こういう台詞だけははっきり発音します。