2005年11月27日(日) |
恋愛遍歴(社会人編・3) |
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の続きです。よろしければそちらからお先にどうぞ。
※文中の男性は仮名です。
結局2つめの職場も1年ほどで辞め、とりあえず繋ぎに・・・と友達の紹介でアルバイトをした。そのアルバイト先で、直行さんに出会った。
営業さんが持ってる顧客データをエクセルに入力するだけの、単純な作業だった。昼間は営業さんはほとんど出かけてるので、事務所内に私1人。たまに課長や部長クラスの人が残ってるぐらいで、そういう時には途中でジュースをおごってもらえたりした。前の職場での上司との衝突と、最終的にはクビにされたも同然の理不尽な出来事に疲れてた私にはちょうど良い気楽さだった。
ある日の朝、いつものように出勤して仕事に取り掛かった私の所に、1人の男性がやってきた。 「すいません、○○チームの本村と言いますけど」 その頃には、座席表などである程度社員さんの名前を把握してた私は、 「あ、はい、すみません。本村さんの分のデータはまだ取り掛かってないんですが」 と答えた。するとその人は 「あーいいんです。自分がそのお客さん達の所を廻りだすのはもうちょっと先なんで、月末までにやっておいてくれればいいですよ、って言いに来たんです」 と笑ってくれた。
それが、直行さんと交わした初めての会話だ。
それだけの会話の間に、私は彼の左手の薬指に指輪がはまっている事をチェックしていた。 (あ、なんだ既婚者かぁ・・・残念。ちょっと好みだったんだけどな) そんな事を思った数日後、思わぬ機会が訪れる。
夕方、いつもより少し早い時間に本村さんが帰ってきた。帰ってきた人皆にそうするように 「お疲れ様です」 と声をかけ、自分の仕事を続ける。しばらくして、休憩がてらコーヒーを飲もう・・・と部屋の隅にあるコーヒーポットの所へ行った。本村さんの席はすぐ近くだ。他には誰もいない。この状況で何も言わないのは逆に不自然な気がして 「本村さんもコーヒー飲まれますか?」 と聞いた。 「え?・・・・あ、うん。いただきます」
コーヒーを渡す時、机の上に置かれた1冊の本が目に止まった。ほとんど条件反射で 「それ、何の本ですか?」 と質問した。
それは、本村さんが今度受ける予定の昇格試験の課題本だった。それを読んで感想文を提出しなきゃいけないのだそうだ。そんな話を聞きながらぱらぱらと最初の数ページをめくり、 「あ、でもこれ結構おもしろそうですね。感想文書き終わったら貸してもらえませんか?」 「いいけど・・・それだったら、先に読んで内容教えてよ。それを元に感想文書くから(笑)」
どんな話の流れだったのだろう。そして、そこにお互いのどんな思惑が働いたのだろう。
その一瞬で私達の頭の中にはその後の流れが出来上がり、後はそれに沿って会話を続けただけ。つまり、私は本村さんの代わりにその本を読み、それを元に本村さんは感想文を書く。そして本村さんはそのお礼に私に夕飯をおごる。そんな筋書きが、実にスムーズに完成してしまった。
今思えば、お互いの中に『今の状況を今後に繋げたい』という想いがあったのだと思う。
そしてそれは実現し、私は本を読み終え、内容を簡単にまとめて説明して、本村さんは感想文を書き上げ、その翌日、食事に誘われた。
「いいんですか?家でご飯食べなくて」 「いいよ。元々あんまり家で食べないし。・・・好きじゃないんだ、家でメシ食うの。奥さんと仲悪いから」
本村さんはバスで通勤してたので私が車を出した。楽しく話しながら食事をし、少しドライブしようか、と車を走らせる。空港の裏手の、滑走路が見渡せる位置で車を停めた。一定の間隔を置いて車が数台停まっている、いわゆるデートスポットだ。
話をした。
助手席から、手を握られた。そのままにしてた。
「・・・・イヤじゃない?」 「・・・いいですよ」
「本当は、最初からかわいいなと思ってたんだ。・・・・また2人で会ってくれる?」 「・・・・・・・・・・今日はもう帰りましょうか」
その日はそれだけだった。さすがに迷った。確かに、本村さんは好みだ。話してて楽しかったし、心地良い。
でも、既婚者だ。
そして私はその時、村木さんとまだ続いていた。
二股の上に両方不倫かぁ・・・。
それはさすがに人としてどうなんだろうなぁ、と思った。でも、先の見えない、そして肝心な『彼の気持ち』すら確証のない村木さんとの付き合いに、疲れを感じ始めてもいた。
その迷いは、2度目に本村さんと会うまで続いた。
数日後また2人で会い、食事をした。店を出た所で、本村さんが 「運転代わるよ」 と言った。その日は本村さんは飲んでなかったので、私は素直に鍵を渡した。
前回とは別の、夜景の見える場所で車を停められた。たわいもない話の途中でさりげなく手を握られ、ふと話が途切れた時に言われた。 「・・・・今から俺がどこに行っても、黙ってついてきてくれる?」 私は無言でうなずき、走り出した車はそこから程近いラブホテルに入った。
キレイな部屋だった。その近辺のホテル街の中では値段もレベルも上ランクとされる所だった。
いいや。どうせこのバイトも期間限定なんだし、この人ともいつまで続くかわかんない。村木さんは連絡がない限り放っておこう。もう1ヶ月以上連絡も途絶えてるし、このまま自然消滅するならそれでもいい。大体村木さんには奥さんがいるのに、私は村木さん1人に操を立てる義理はない。気になってる人とSEXするチャンスがあるんだから、やっちゃえ。
投げやり・・・というのとも少し違う、でもどこにも真剣さはない。そんな気持ちで私は本村さんとの関係を始めた。2度目のホテルから、2人の時は直行さんと呼ぶようになった。
「好き、とか言っちゃいけないんだよ」 というのが、最初の頃の直行さんの口癖だった。 「言葉にしちゃうと気持ちが深まるから。深みにはまっちゃうと2人ともキツイから」 そうやって私が本気になるのを牽制してたのかもしれないし、自分がのめり込むのを止めようとしてたのかもしれない。いずれにせよ、私達はそれなりにいい関係を続けていた。
直行さんとの関係が始まってから1ヶ月ほど経った頃、久しぶりに村木さんからメールが来た。 「また会える?」 という内容だったので 「ごめん、彼氏ができちゃったから会えないよ」 と返事をした。 「そっかー。良かったね。仲良くね」 というメールを最後に、村木さんとは完全に終わった。あの、桜の下を散歩した夜が最後になった。
直行さんと奥さんが仲が悪いと言うのは本当だったようだ。結婚した当時、実は直行さんには本命の彼女がいた。つまり今の奥さんは浮気相手だったのだ。彼女と結婚するつもりで親に会ったりもしてたのに、なんとそのタイミングで浮気相手が妊娠。仕方なく、責任を取るために結婚したのが今の奥さんであるらしい。
そんないきさつだったから、直行さんいわく 「昼メロみたいな泥沼ぶりだったよ」 だそうだ。本命の彼女が自殺未遂を図ったり、奥さんの父親には殴られ(その頃から考えても15年ほど前の事だ。今のように“出来ちゃった婚”なんて言葉もなく、それ自体が市民権を得てもいなかった頃だ)、散々揉めた挙句の結婚。奥さんは自分が『彼女』だと信じ込んでいたから一連の出来事に呆然とし、結婚後も折に触れては 「どうせ私とは本気で付き合ってなかったんでしょ?」 と嫌味を言うようになった。
正直、直行さんの家庭環境や夫婦関係に興味はなかった。だからって職場の若いバイトに手を出すのが許されるわけでもないし、私達のしてる事が『不倫』と呼ばれるものである事に変わりはない。
付き合いだして2ヵ月後には、例の昇格試験に合格した直行さんが2ヶ月の研修に行く事になった。他県の研修所に泊り込みだ。でも週末は休みだから、自宅に 「課題があるから週末も研修所にいるよ」 と連絡さえすれば直行さんは完全にフリーになる。私が研修所のある所まで行ったり、こっそり帰ってきた直行さんと待ち合わせたりして、週末はほとんど一緒に過ごした。適当なラブホテルに泊まり、いろいろな所に行った。
そう、私達は楽しく付き合っていた。改めて思うとあり得ないほどに、おおっぴらに出歩いていた。研修が終わって直行さんが隣の市の支店に転勤になってからも、普通に休日に会って映画を見に行ったり、平日も仕事の後に週に2回は会っていた。
私は、その頃には期間限定のそのバイトも終わり、家の近くのレンタルショップでバイトを始めていた。時には、私の平日の休みに合わせて直行さんが有給を取り、いつも通り出勤するフリをして家を出てきた直行さんを拾って1日デートしたりもした。
それだけおおっぴらにしてたら、当然知り合いに会った事もある。映画を見に行って大学の友達に会った時は、普通に 「彼氏なの」 と紹介した。自分のバイト先の人達にも、既婚者だという事だけを『バツイチだ』とウソをつき、普通に彼氏がいる事にして話していた。
ただ1人だけ、ファミレスで偶然会った友達にはばれた。たまたまその時、直行さんは仕事の関係でスーツを着てたのだ。(普段は仕事の後でもラフな格好をしている)若く見える人だったけど、スーツを着てるとやはりそれなりに年上に見える。もしかしたら、すれ違った一瞬で彼女は直行さんの左手の指輪を見たのかもしれない。後日改めてあって食事をした時に正直に打ち明けたら、 「ん〜・・・・賛成はしないけど、心のどこかで、咲良ちゃんならうまくやるだろうなって気もするんだよね。家庭を壊すほどのめり込んだりはしないって言うか、周りが見えなくなるほど本気になっちゃう事はないんだろうな、って。・・・・・・とりあえず、反対はしない。反対したからってすぐやめられるものなら最初から始めてないでしょ。ただ、いつまでも続けられるものじゃないって事と、最終的には咲良ちゃんは幸せにはなれないって事だけは忘れないで」 と真剣な目で言われた。うなずく事しか出来なかった。
おそろいの指輪を買ってもらった。一緒に電車に乗って浴衣で花火大会を見に行ったりもした。私がレンタルショップのバイトを辞め、ちゃんとした会社に就職したらさすがにそれまでのように頻繁には会えなくなったけど、それでも週に1回は会った。会えば必ず直行さんは私を抱きたがる。私が仕事の後に直行さんを迎えに行き、コンビニで夕飯を買ってホテルへ直行するようなデートも多かった。それでも楽しかった。
でも、いつからだろう。直行さんの言葉が少しずつ変わり始めたのは。
「好きだよ」 と頻繁に口にするようになった。 「家にいると時々思うんだ。なんで俺こんなとこにいるんだろう。なんで咲良と一緒にいないんだろうって」 と呟くこともあった。家族がいない時に私を家に呼ぼうとする事もあった。一度だけ 「・・・・子供が高校卒業するまで待ってくれって言ったら、待てる?」 と聞かれた事もある。明らかに、彼は自分で決めたルールを守れなくなってきていた。
そしてそれは、徐々に私にも伝染していた。時々想像する。直行さんが奥さんと別れて、子供は2人とも奥さんへ。私は直行さんの新たな妻として彼の実家に挨拶に行く。田舎で2人暮らしていると言う彼の両親は、私を認めてくれるだろうか。妊娠させて、責任を取ると結婚したはずの妻を捨て、若い女を選んだ息子を許すだろうか。妻を捨てさせた私を認めてくれるだろうか。別れても、子供の養育費は払わなければいけないだろう。いつまで?2人とも高校を卒業するまで?大学を卒業するまで?だったら子供が高校を出るまで離婚は待ったほうが良いか。でも私も働けばやっていけるんじゃないか。あぁそれ以前に、奥さんは彼と別れてくれるだろうか。
でも、と思う。私はそれを望んでるのか?
もともと結婚願望なんてなかった。今、私がそれを夢想するのは、単に直行さんを独占する手段としてそれしかないと思っているからだ。では、私は本当に直行さんを独占したいと思っているのか?
徐々に重くなるお互いの想いに疲れて、私は次第に気持ちが冷めていった。楽しいだけで良かったのに。奥さんがいても、気持ちの上で私が1番だと信じられればそれで良かったのに。
だって、私がもしあなたの“奥さん”になったら、その時は私が怯えなきゃいけなくなる。またいつかもっと若い子にこの人を奪われるのではないか。四六時中一緒にいるようになったら、この人にとっての私は今の奥さんと同じように価値をなくしてしまうのではないか。この人が浮気しないと、どうして言い切れる?だって私は身をもってそれを知っているのに。
少しずつ、2人の気持ちの重さが食い違っていく。私を独占したがり、同じように私だけのものになりたがる直行さん。結局は独占できないとわかってる男に独占される自分、それが次第に窮屈になってくる私。
それでも、表面上はそれまで通り仲良く続いていた。クリスマスにはデートをした。誕生日には財布を買ってもらった。バレンタインにはチョコをあげた。そしてホワイトデー。
その日、予想もしない形で、私の運命が大きく変わった。
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