今日から2泊3日の旅行だ。
春休みですからね。子どもを旅行に連れていくのは当然のことですよ。
「そーそー。春といえば那須。秋といえば那須よね」 「夏は大阪と沖縄よね」 「ここ数年,ずーっとそのローテーションよね」 「あ,ときどきお義母さんの実家絡みで山梨が混ざるのよね」
はいはい。 どうせワンパターンだ,決まり切っているとおっしゃりたいんですよね。 いいじゃないですか。 保養所は安いんだし。 子どもも慣れてるし。 運転も楽だし。
「まー,いいけどさ」 「例のところには寄ってもらえるんでしょうね」
ぎく。 例のところとはあそこですね。 実は僕も用事があるんですよ。 問題はムスメ達ですがね。
「仕方ないわよ。分担よ。私はこっち」
またですか。 また僕が下のムスメですか。
などというやり取りは聞こえないようにやっていたにも関わらず,
「どうせあたちのことが嫌いなんでしょー!!!」と現地で下のムスメが絶叫。
よしなさい,人聞きの悪い。
「あんたがそんなんだから嫌われるんでしょっ。うるさいっ」と妻。
ああ,火に油。大人げないことこの上ない。 まだ目的地についてもいないのに早くも気力と体力を奪われていく…。
「わかったわよ,2人とも私が連れていけばいいんでしょ」 「ええ,ええ。ここは運転のできない私がゆずればいいんですよ」 「ふんっ」
いや,そんなことは誰も言っていないのですが…。 ま,まあそうしていただければ事は丸くおさまる…。
「じゃあ車のキーを貸してよ」
なんですって。まさか車に子どもを閉じこめる気じゃないでしょうね。
「そんなことするわけないでしょ」 「とにかくとっととよこしてよ,とってくるもんがあるんだから」
と,まあこんなやり取りの末,僕は解放された。 ここはアウトレットモール。 4月に予定している自転車の購入に向けてサングラスを仕入れなければならないのだ。
下調べはしておいたが,さらに念入りに店を回り,候補をいくつかピックアップ。 おお,そうだこのあたりもチェックしておかねば…。
ふと気づくと,モール内に設置されたあちこちの椅子に, たくさんのの子どもたちが座っている。 携帯式のゲーム機を持っている子どもも多い。 この青空の下,そんなもので時間をつぶすとは嘆かわしいことだ。
ん? おや? あれはうちのムスメ達ではないか。 1人はゲーム機,1人は携帯電話を手にしている。
こらこら。 おかあさんはどこに行ったんですか。
「うるさいなー。おとーさんのせいで失敗したじゃないの。きー」
なな,なんという口の聞きよう。 上のムスメはゲーム機を持つと人が変わるのだ。
「おとうさん,あっちいって!!」
下のムスメはいつも通り生意気…。
まったく,自分が引き受けるようなことを言っておいて, ゲームをさせておく気だったとは…。 取りに行くって言うのはゲーム機のことだったんだな。 いったい妻はどこへ行ったのだ。
ゲーム機が1つしかないので,妻はもう1人にゲームをさせるために, 自分の携帯をムスメに残して行ってしまったのだ。 つまり,呼び出す手だてはないのだ。 いわば糸の切れた凧…。おそろしい。 このままでは何時間帰ってこないかわかったものではない。
おとーさんはそのへんを見てくるからね。ここを動くんじゃないぞ。
「…」
ちくしょー,返事もしやしねー。 一応頭をこくこくしているから,わかってはいるんだろう。
しかし,どこを探せばよいのだ…。 しばらくうろうろした末に途方にくれていると,ふいに肩をたたかれた。
振り返ればそこにでかい袋を持った妻。
「アンタ,何うろちょろしてるのよ」 「探したじゃないの。子どもに聞いても帰ってきてどっか行っちゃったって言うし」
むむむ。 アナタを探していたんですよ。 まあ,ここで会ったのはちょうどいい。 このサングラスなんですけどね。
「いいんじゃない。いいと思う」
おお,そうですか。
「うん。顔がきつそうじゃない」
そうですか。サングラスかけるとちょっと強面になっちゃいますもんね。
「違うよ,そうじゃなくて,顔がおっきくて,いっつも窮屈そうだから」
む…。 いちいち人の神経を逆なでする人ですね。 まあ,いいや。快適にかけられるというのも大切なことですからね。
会計をすませて振り返ると,あっ,またいなくなっている。
それからいろいろあってアウトレットモールを出られたのはさらに1時間近く後でした。
こんなに書いてもまだ那須につきません…。
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