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2016年01月15日(金)
『マクベス〜The tragedy of Mr. and Mrs. Macbeth』

wits『マクベス〜The tragedy of Mr. and Mrs. Macbeth』@両国シアターΧ

公演期間短いのが勿体ない! は〜『マクベス』でこんなに笑うとは。チョウソンハ×池田有希子のユニットwitsによる夫婦漫才仕様です。成河ではなくチョウソンハの名義を使ったところ、春からミュージカルの大作が続々控える彼の原点を振り返る機会にもなったのかな。

とは言うものの、キャリアの初期にこの舞台を成立させることは難しかったかもしれない。ソンハくんが十年ぶりに現場にひっぱりだしたという西悟志さんによる演出は、発想力とそれを具現化するアイディアが満載。そしてそれは、演者の実力なしではとても難しいものでもありました。アイディアとスキル。その両方が揃うといかに強力なものが出来るかと言う…ハイテンション必須、しかし勢いだけでは観客は飽きてしまう。コロンブスの卵のようなことで、その発想は、実際目にするとありふれたもののように映る。実行するにはある種の勇気が必要だ。その勇気は、プレイヤーの実力を信じてこそのもの。

外枠、導入は夫婦漫才。比喩ではなく。裸舞台に素の照明、舞台にあるのは一本のスタンドマイク。そしてギター。これも漫談的な使い方。演芸を通してシェイクスピアの悲劇を見せる。『インディ・ジョーンズ』のテーマ(「Raider's March」)にのって客席通路から現れたソンハくんと池田さんのふたりは、どこからどこ迄がアドリブなのだろうと思ってしまうような自然な話術で観客に話しかけ、『マクベス』の大筋を説明する。説明のなかに台詞が混ざりだし、次第に観客を劇世界へと招き入れる……ありふれた言葉だが、この「招き入れられた」感覚が、演者の魔法にかけられたようだったのだ。

以前演劇ライターの徳永京子さんが青柳いづみさんを評して「観客に催眠術をかける」と書いていたのだが、その喩えがよく解ったといおうか。ラジオのチューニングのような感覚だった。波長を合わせられたというか…チャネリングに代表されるオカルト的なあやしさだが、古代演劇は治療(セラピー)に使われていた、という話を知っていれば納得も出来る。実際芝居にはそういう力があるのだろう。だから使い方によって宗教にもなる。そんなことを思い乍ら観た。『マクベス』には魔女が登場し、その言葉によってマクベス夫妻は道を踏み外す。彼らは魔女たちの演技、台詞に波長が合ってしまったのだろう、と思わせられる解釈。

ふたりは男女の性を問わず、入れ替わり立ち替わり登場人物たちを演じる。その際、池田さんは演者の性のままで演じる。たとえば彼女がダンカンを演じる際、台詞は女性の言葉遣いだ。それはそのまま魔女の言葉と地続きになる。それにしてもふたりの絶妙なかけあい、このリズム感。ボケもツッコミも、長年連れそった間柄のようなコンビネーション。これが数日の稽古で仕上げられるものなのか……役者=超人、という言葉を思い出す。漫才師を演じるなら漫才が出来るのはあたりまえ、あるいはそう見せられるのがあたりまえ。場面のジャンプ、ループといった構成とともにとにかくリズムがいい。ゴネるマルカムからマクダフ夫人とそのこどもたちの逃避行へと移り変わる場面は視界そのものが変わったような錯覚を受けた。ソンハくんの弾き語りで唄われた山崎まさよしの「One more time, One more chance」も、こうやって聴いてみると納得な歌詞。クライマックスに再び流れた「Raider's March」とともに、いくらでも現在に照らし合わせることが出来るシェイクスピア作品の妙味を楽しみました。

久し振りにソンハくんのハイテンションストレートプレイを堪能出来たのも楽しかった。あのテンションで「おかしいだろ、なんでこれで森が動くってことになるんだよ!」とか「帝王切開ってそりゃないだろ!」て言われると胸がすきますね(笑)。と言えば今回、「女の腹から生まれた」「股から生まれた」と数パターンの訳に分けられていたけど、股からと言われればまあ…成程なと思ったり。それでも無理やりだがな……流石の「出たよ、シェイクスピアお得意のダブルスタンダード!」ですな。このハイテンションをときにずっこけさせる、のらりくらりのマイペース池田さんはあの声とともにアメーバのような変容ぶり。イタコのようにも見えました。いやーかわいいやらこわいやら。そして事前には発表されていなかった(確か)キャスト、地獄の門番役の佐藤友さんがすごく面白かった。「ごのよのながをぉおお〜ウアアアア」で場を掌握しましたね(笑)。

シアターX、久し振りに行きました。ロビーに置かれたチラシのセレクトから雰囲気から、好きな劇場。両国も以前の勤務先があるところなので馴染み深く、吉良邸跡を見て帰りました。