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2015年05月02日(土)
山口晃展『前に下がる 下を仰ぐ』

山口晃展『前に下がる 下を仰ぐ』@水戸芸術館現代美術ギャラリー

水戸芸術館に行ったの、廿年(山口晃作品にちなんでこの表記にしてみた)くらい前の金守珍×坂手洋二×鈴木勝秀のシンポジウム(検索しても記録が見付からない…)以来ですよ……。昨年の群馬県立館林美術館『画業ほぼ総覧』に行けなかったのでこれはもー! と意気込んで出掛けました。と言う割に直前迄日程の都合がつけられなかったので、この日開催された『お絵描き道場』には参加出来ず。アーティストトーク等関連プログラムが盛り沢山なのは、山口さんが完成していない新作を会場で描き続けていて(苦笑)水戸に滞在しているからでしょうかね……。会期中も(閉館後の夜)描くと言うのはこの方の場合珍しいことではないのですが、今回は「制作中のお声掛けはご遠慮ください」と言う看板がEテレの日曜美術館で流れていたので、開場中も描いているのかも。

8セクション(ギャラリー内7+外1)。動線が決められており、ゲートを通過しフェンスで区切られた狭い道を辿る。第一室の展示作品をまず遠巻きに眺める。第三室には階段(十三段)、それを登って立体作品『忘れじの電柱 イン 水戸』を観る。このエリアのみ撮影可だったので、階段を降りてから写真を撮る。周りにはいい角度で電柱を撮ろうと、妙なポーズになっているひとがちらほら。まあ自分もそうだったが。第五室の突き当たり、表題作『前に下がる 下を仰ぐ』を観て振り向くと、視界に拡がるのは自分が辿ってきた一直線の道。

第一室に戻り、間近で作品を観る。新作の数々は新境地とも言える色遣い、圧倒されて思わず後ずさる。対して同じく新作の『オイル オン カンバス(本歌 西本願寺 襖絵)』、タイトル通り白地のカンバスにオイルで絵が描かれている。一見真っ白な絵、しかし観る角度によってオイルが照明に反射し、描かれているものの姿が垣間見える。この照明が曲者。ちょっと移動すると反射面が自分の影で遮られてしまう。よって絵の全体像を観ることが出来ない。それを意図して照明の位置が決められたそうだ。インスタレーションとしての空間作りも緻密。

美術手帖の特集で会田誠がコメントしていたが、展示で観ると山口さんが現代美術家だと言うことがよく解る。「美術」は西洋から入ってきた言葉を日本語に翻訳したもの。よって「西洋美術」と言う言葉は一種のダブルバインドだ。(西洋)美術の手法で描かれる日本の美術、それは何なのか? それを自分はどうやって描いていくのか? 圧倒的な画力、ユーモアあふれる筆致の深部には、思想が込められている。

第六室は『無残ノ介』シリーズ一挙公開、感極まる。本気で会場で涙ぐんだ(エモ)。ご本人もカタログに「図録に収まってしまうと、そのあたりはなかなか再現されにくいのがもどかしい」と書いていたが、確かにこれは場作り含めて観てこそ、と思わずにはいられなかった。マンガの手法を用いたコマ運びが、サイズを問わず繰り広げられる。コマ割りされたA4サイズからいきなり100号サイズへ。モノトーンの墨絵から色彩鮮やかな油彩へ。紙、キャンバス、板と素材も自由自在。またストーリーが素晴らしくてな…のちに無残ノ介に挑む、舞を仕込まれた三人のこどもたちの日々のパートでは涙で視界がぼやけ、山車出動のパートではニヤニヤを抑えきれず。ふと周囲を見ると同様にブルブルしているひと多数(笑)。これなー。作家への畏怖と敬意を抱きながら、作品を通して親睦を深めている。

作家の妄想が指先に降り、線になる、色になる。登場人物の肌の弾力迄感じられそうな、刀の軌跡が起こした風が瞼に触れそうな。五感をフルに喚起する画面に対峙する観客たちは、思い思いに作品を観てい乍ら、どこかで作家に、その場にいる誰もがにコンタクトしている。美術館が方舟のようだ。感覚を研ぎ澄まされる(よって鑑賞後には心地よい疲労感がある)作品群と、思わず頬が緩む『紙ツイッター』、『食日記』の緩急。そのどれもが山口晃と言う作家。

ギャラリー内最後の第七室には、三年前のエルメスでお披露目された『Tokio山水(東京圖2012)』。これも会期中の夜描き続けられていたものだ(夜な夜な通ったコンビニでは顔を覚えられたとか)。真夜中の銀座、ビルの一室で制作を続ける作家の姿を想像する。展示期間は冬〜春で、再度訪問したとき絵の中に桜が咲いたことを思い出した。ほのかなその色に再び向き合う。今もまた春だ。出口には『どこでもドアは行きたい場所を思い描かなくてはどこへも行けない』。また山口作品に会える場所を想像し、扉をくぐった。

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・作品単体で言うと『ベンチ』『ポータブルマン』『大和撫子』が好きだったなあ。『大和撫子』は「ナデシコジャパン」と読むそうです
・『緑の台所』もよかったなあ。作品のなかにひとり、勘三郎さんに似ているひとがいたよ(微笑)

・水戸芸術館|美術|山口晃展 前に下がる 下を仰ぐ
公式サイト。関連プログラムもいろいろあったでよ

・山口晃 前に下がる 下を仰ぐ | 青幻舎 SEIGENSHA Art Publishing, Inc.
カタログ。作品集として青幻社より出版。英訳文も載っているんですが、『続・無残ノ介』のセリフや効果音も全部英訳してあるのが面白いよ

・美術手帖2015年4月号 | 特集 思想する絵師 山口晃 | 美術出版社
これは保存版! ちょう充実の内容でした。水戸への、水戸からの車中読んで過ごしました

・kai(@flower_lens)/2015年05月02日 - Twilog
当日の水戸あれこれ。撮影した画像等も載せてます