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2009年08月27日(木)
『狭き門より入れ』とか

■うう
パッチョ負けちゃった…。
しかし他の試合は千単位なのに、パッチョ対むすび丸は万単位で票が入っていたよ。記事にもなっている(笑)
・キャラクター選手権2009:いよいよ準決勝!
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初顔4体が争ったBブロックでは、まれに見る大激戦が繰り広げられました。武将姿が自慢の「むすび丸」(JR東日本東北・七十七銀行)と、出来たて着ぐるみ「火ぐまのパッチョ」(東京ガス)は、けた違いの票数を争う激烈なデッドヒートに。最後はむすび丸が猛烈な追い込みを見せ、18639票対17718票で逃げ切りました。
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ははは、4体って、「出来立て着ぐるみ」って。もうこうなったらむすび丸に優勝してもらいたい、がんばれむすび丸。
肝腎の野球の方は、東京ガスは勝ち進んでいるそうです。試合会場に行くとパッチョがハグしてくれるらしい。ええ、それちょっと羨ましい……

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Team申『狭き門より入れ』@PARCO劇場

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力を尽くして狭き門より入れ、滅びにいたる門は大きく、その路は広く、之より入るもの多し。
生命にいたる門は狭く、その路は細く、之を見出す者少なし。

新訳聖書『マタイによる福音書』第七章より

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パンフレットからの引用ですが、その通りの話です。

Team申は初めて観ました。前回の『抜け穴の会議室』も前川知大さんの作・演出だったんですよね。うーん、やっぱりすごく面白い。世代は違えど、同じような時期から注目され始めた劇作家の中ではいちばん気になるなあ(まあまだまだ観られていないものも多いのですが、現時点ではと言う意味で)…と言うか、作風は全然違うけど、個人的には赤堀雅秋さん以来の衝撃です。選ぶテーマやモチーフ、毒とユーモアのバランス、諦観の中に一瞬見いだす熱、未来に希望を託す賢明さ。そして“記憶”をとても大事に扱っているところに惹かれます。

舞台と言う制限のある場で観るSF(と言っていいかな)としての構成力も見事です。空間が飛んでいるのに一場で見せきるもん。うーん、でもこのひとなら、映像なら映像にピッタリのものも書きそうだなあ…。

で、この手のものって、ちょっとしたズレでとても陳腐で安易なものになったりするのですが、そこは実力派揃いの役者陣がガッツリ見せてくれました。人間のイヤな部分、ダメな部分、愚かな部分。それでも何故か愛されているかもしれない。それは誰から?信じるのは無理だと思っていても、やっぱり信じようとしてしまう。「人は信用するのが仕事」、そういったこと。

以下ネタバレあります、未見の方はご注意を。

コンビニが新世界への入口になっている。世界の更新は3日後。新世界に行けるひとはもう決まっている。旧世界はもって3年、もうダメなのは明白。事情を知っているひとと知らないひと、門番の役割、こぶとりじいさんの引用。

分け隔てなく愛して救うのは無理。絶対に差別がある。そんなことはない、というひともいるかも知れないが、優先順位と言い換えればどうだろう。こどもの命が優先、家族の幸せが優先。生き残ると言うことは命に順位がつくと言うことだ。自分と愛するひと、どちらを選択するか?しかしこの作品には、自己犠牲がどうこうと言うお涙頂戴的な方向には意地でも持っていかないぞという姿勢が感じられた。雄二のようにそれがあたりまえのこととして刷り込まれている、人間の本能に可能性を見出そうとしている。これは「人は信用するのが仕事」に繋がる。だから天野は残る。

口にしてしまえば元も子もない。打算や見返りが求められるのは、信用することに理由がつくからだ。あれだけ冷静だった岸が一瞬感情を荒げたのは、理由がつかない信用を信じる人物を前にしてしまったからだろうか。そして葉刈は可能性を諦めてしまっているが、それで納得している訳ではない。門をくぐってしまうと旧世界での記憶は消えてしまうので、「忘れてしまうこと自体が悲しくないですか?」と言っていた魚住は、忘れたことすらも気付かず新世界で穏やかに暮らしている。時枝にはおまけのように宝くじが当たっている。それはきっと天野がコンビニの外に向かって投げた三千万が変換したものだろう。彼らを送り出した天野は、岸と葉刈に向かって、「クソッタレな世界の夕焼けがこんなにも美しいなんてな」というようなことを言い放つ。「人は信用するのが仕事」なのだ。

ほらね、自分が書くとこんなにも青臭くなる…(ガクリ)。そんなデリケートなテーマを、おにぎりやおーいお茶や東スポを使って見せてくれる作品です。頭をなでるとか非常ベル押したい欲求を抑えきれずジャンケンとか、そう言ったちょっとした行動でも。

照明もすごくよかった!原田保さんだったー。あの、劇場に入った途端目に飛び込んで来たコンビニの灯りにはうわっとなったもん。外は真っ暗、中は妙に白く無機質な灯り。ラストの夕焼けも天野の台詞通り美しかった。

舞台の蔵之介さんは久し振り…多分『おはつ』以来……ひえー5年振り。だったもんであのドスが利いた発声に馴染む迄ちょっと時間がかかった(苦笑)しかしやっぱり舞台映えするなあ。腕長いし(申だけに笑)身体もキレる。こういうとこはピスタチオ時代を思い出したり(としより)。イヤ〜なやつの背景と、イヤ〜なやつになった経緯と、そういう自分にイヤ〜けがさしているけど後戻り出来ない意地っ張り。だからこそ最後の選択に到る流れが感動的なものになる。いい役者さんだなあ。クールに見えるけど実は熱いひとだよね。

亀治郎さんを現代劇の舞台で観るのは初めてでした。で、映像で観ている時には気付かなかったのだが、舞台で観ると…し、姿勢がいい(笑)と言うか、やはり立ち姿が違う…ええーと無意識なのか何なのか、見栄を切るような(=キメのところで観客席に正面から向かい合う)仕草が目につき、ちょっとこの座組の中では異質な感じ。でも他の登場人物と相容れない役柄からすると合っていたのかも。人間の無関心に絶望し、一種の復讐心すら感じさせる冷たい狂気は、後方客席にもビンビンに伝わりました。

ニヒルな浅野さん、出てきただけで舞台の空気が変わる手塚さん、この辺りは流石です。どちらもユーモアがあるし。そして有川さんがよかった!あの頭なでたくなる感じ!(笑)自覚のない“選ばれた”人物を絶妙な温度感で見せてくれました。中尾くんも長編舞台が初めてとは信じられない馴染みっぷり。映像の方ではもう有名ですが、舞台でももっと観てみたいと思いました。

と言えば、今回の出演者って全員舞台の身体を感じさせるひとばかりだったので、心地よく観ていられたように思う。浅野さんはもう見ての通りのルパン三世体型だし、手塚さんも相変わらず浮世離れした体型と動き。…あれ、それって舞台と言うよりマンガの身体?(笑)えーと要はカットなしに見ていける=一連の動きに無駄がなく編集いらずな身体と言うことです。

はー、『狂四郎2030』を読んだばっかりだったからいろいろ考えちゃったよ…30日は選挙だし。ある意味いいタイミングで観た。ひとりで世界を変えることは不可能だが、自分の大切なひとには無事でいてほしい、幸せでいてほしいと思う気持ちが繋がっていけば、オノ・ヨーコが言っていたような奇跡が起こるのだろう。行為と感情はシンプルだが、実現はとても難しい。ただ、可能性は信じてみたい。