父の作次は写真に趣味があり色々展覧会などにも出品して賞なども貰っていたが同好の士や独身の部下達を自宅に招いて御馳走をすることもあった。その日は母が張り切ってもてなすので子供心にも来客をもてなさなければという意識があった。写真を趣味とする集まりだけに皆自慢の写真を披露しあっては楽しそうに話し合っていた。勇は大人達が写真を前にかざして説明しているのを父の傍らで一人前の顔をして見たり聞いたりしていた。
「この前出征兵士を送る壮行会の出し物でとった踊り子の写真がありますが出してもいいでしょうか」と言って、勇のほうを見ながら父に一枚の写真を手渡している客がある。
「ほう、なかなかよく撮れているじゃあないですか」と父がその客から手渡された写真を壁に張って披露した。それはブラジャーと腰蓑をつけただけの踊り子達の群舞の写真であった。
ここに及んで、うちにも似たような裸の写真があることを思い出した。隣の道子ちゃんとかくれんぼをしているとき押入れの箱の中で見つけた写真である。父が押入れの中に仕舞っておくくらいだから余程大切な写真に違いなかった。これを父が取り出して来て披露しないのが不思議であった。きっと父は写真の存在を忘れているに違いないと考えた勇は、押入れの中からこの写真を取り出してきて父に手渡しこれもお見せしたらと手柄顔して言ったものである。すると写真を手にした父が慌てて机の引出しに仕舞い込み、子供は向こうで遊んでいなさいと隣の子供部屋を指差しながら厳しい口調で言った。何故父親が慌てて折角の写真を仕舞い込んだのか不思議であった。
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