「なっ、ななに!? なによあれ!?」 驚いたあまりにどもったあたしの口を手でふさぎ、レンは、 「しー! 静かに」 もう片方の手を人差し指立て、自分の口に当てつつ言う。 「ほら、石見てみ。 始まった──」 「……」 なんとか慌てる自分を押さえ付け、あたしは頷く。 レンが手を離してすぐ、石を見やった。 見てすぐに、石は仄かな光を放ち、ふわっと浮き上がる。 「!?」 あたしはなんとか声さえる。 なにかが起こり始めた。 石は切り株から20〜30cmのあたりに浮いている。 ピシッ! とヒビが入ったかと思うと、パリン、シャリンと石らしくない、硝子細工が細かく割れる様な音を出す。 淡く包みこむ様だった光が、今度は内側から強く輝くものに変わり、石は細かく砕け散った。 とても細かく、砂になって下へと落ちる。 すると石の浮いてた場所には、今度は薄い被膜の様な球体があった。 石の三倍程のそれは、中に人間の様な何かが丸まって入っていた。 (もしかして──) 「……あれが妖精?」 小声で問うと、レンはコクッ、と強く頷いた。 あたしは息を飲み、視線を妖精の方に向けた。 月が丁度真上にあり、月光に照らされ、薄い膜がスウッと溶けるように消える。 丸まってたものは、ゆっくりと身体を伸ばしていく。 幼さを残した細い肢体。 背にあった四つの萎びたような塊が、少しずつ広がっていく。 それは、月の光の如く半透明の白い翅(ハネ)。 ぴくりっと身体がビクつき、それにあわせて翅も震える。 そして、ゆっくりと目を開け、瞬きをした。 そこにあったのは。 薄い木地で作った衣を纏った、翅の生えた可憐な子供の人形。 目を開け、幼い仕種でキョロキョロしてたかと思うと、あたし達の方を見る。 視線があった。 あたしはドキッ!? とする。 妖精はニッコリ微笑んだかと思うと、丁寧なお辞儀をした。 あたしはつられて会釈する。 レンもペコッとお辞儀してた。 すると妖精は上を見上げ、翅を軽やかにはためかせたかと思うと、ゆっくり上昇し始めた。 ゆっくり、ゆっくりと昇っていき──月が一際強く輝いて。 妖精は丸い光の塊となって、あっという間に月へと吸い込まれていった。 「……還ったんだね」 ぽつり、と呟くと、 「ああ……」 レンは静かに頷いた。
つづく。
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