徒然なる Short story 集

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『月のカケラ』十三

2007年11月02日(金)

「なっ、ななに!? なによあれ!?」
 驚いたあまりにどもったあたしの口を手でふさぎ、レンは、
「しー! 静かに」
 もう片方の手を人差し指立て、自分の口に当てつつ言う。
「ほら、石見てみ。
 始まった──」
「……」
 なんとか慌てる自分を押さえ付け、あたしは頷く。
 レンが手を離してすぐ、石を見やった。
 見てすぐに、石は仄かな光を放ち、ふわっと浮き上がる。
「!?」
 あたしはなんとか声さえる。
 なにかが起こり始めた。
 石は切り株から20〜30cmのあたりに浮いている。
 ピシッ! とヒビが入ったかと思うと、パリン、シャリンと石らしくない、硝子細工が細かく割れる様な音を出す。
 淡く包みこむ様だった光が、今度は内側から強く輝くものに変わり、石は細かく砕け散った。
 とても細かく、砂になって下へと落ちる。
 すると石の浮いてた場所には、今度は薄い被膜の様な球体があった。
 石の三倍程のそれは、中に人間の様な何かが丸まって入っていた。
(もしかして──)
「……あれが妖精?」
 小声で問うと、レンはコクッ、と強く頷いた。
 あたしは息を飲み、視線を妖精の方に向けた。
 月が丁度真上にあり、月光に照らされ、薄い膜がスウッと溶けるように消える。
 丸まってたものは、ゆっくりと身体を伸ばしていく。
 幼さを残した細い肢体。
 背にあった四つの萎びたような塊が、少しずつ広がっていく。
 それは、月の光の如く半透明の白い翅(ハネ)。
 ぴくりっと身体がビクつき、それにあわせて翅も震える。
 そして、ゆっくりと目を開け、瞬きをした。
 そこにあったのは。 薄い木地で作った衣を纏った、翅の生えた可憐な子供の人形。
 目を開け、幼い仕種でキョロキョロしてたかと思うと、あたし達の方を見る。
 視線があった。
 あたしはドキッ!? とする。
 妖精はニッコリ微笑んだかと思うと、丁寧なお辞儀をした。
 あたしはつられて会釈する。
 レンもペコッとお辞儀してた。
 すると妖精は上を見上げ、翅を軽やかにはためかせたかと思うと、ゆっくり上昇し始めた。
 ゆっくり、ゆっくりと昇っていき──月が一際強く輝いて。
 妖精は丸い光の塊となって、あっという間に月へと吸い込まれていった。
「……還ったんだね」
 ぽつり、と呟くと、
「ああ……」
 レンは静かに頷いた。





 つづく。


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如月なつき [MAIL] [HOMEPAGE]