――とある世界の、遠い昔の神語り――
昔々、世界がまだ始まっていない頃。 そこには、何にもありませんでした。 ただ、ただ、何もなく…… 後々、『無』という概念で呼ばれるものなのかもしれません。 ある時、小さな光が生まれました。 それはあっという間に大きくなって、爆発しました。 爆発により、世界には『時間』というものが生まれました。 『生』という現象の起きた瞬間でもありました。 そして、爆発がおさまった頃、世界は、大きく分けて、二つの力に別れていました。 『光』が生まれたことにより、同時に、『闇』も生まれたのでした。 その二つは反発しながらも近づきあい、お互いに影響を与えあっていました。 そのうち、二つの間に、沢山の、混ざり合った新しい力が生まれていきました。 それでも、世界はまだ一つでした。 世界は少しずつ少しずつ…… あるいは、瞬く間に育っていきました。 しかし、ある時、二つの大きな力――『光』と『闇』は、争いを始めました。 とても激しい争いで、世界は半分に分けられました。 世界が半分になっても、戦いは終わりません。ますます激しくなるばかりです。 その戦いの中、『死』という現象が生まれました。 それにより、生と死の二つの次元へと、それぞれの世界はさらに分けられました。 『光』は、死んだら天へ昇り、『闇』は、死んだら地に潜るように――
世界が二つになったことにより、間にある様々な力同様、世界と世界の間に、様々な小さな世界が生まれました。 沢山の小さな世界が生まれたことにより、世界は、奇妙なバランスをとっていました。 小さな世界は、とてもとても微弱で、中には、あっという間に消えてしまうものもありました。 それでも、すぐにまた、新しい世界は生まれます。 戦いにより、それはますます激しくなります。 消えては生まれ、生まれては消えて…… 不規則に無差別に無造作に、繰り返し繰り返し続きました。 そして、それは二つの世界に、さらなる影響を与えます。 繰り返し起こる、消滅と誕生は、破壊のエネルギーとなり、世界を繋ぐ広大な時空間に衝撃をあえました。 亀裂が生じました。 そして、破壊のエネルギーは、まるで、波が打ち寄せるように、二つの世界にも押し寄せてきました。 互いの攻撃による破壊の所為でなく、二つの世界が壊れかけたのです。 これ以上戦いを続けるのは、双方にとっても、小さな世界たちにとっても、よくありません。 しかし、戦いは続きました。けれども、それは、長くはありませんでした。 もう、これ以上は無理だと思われた瞬間、決着が付いたのです。 『光』は、『闇』を倒し、さらに、その身柄と強大な力を、彼らの住む世界の地の底の中心――一番深い処へと、封じたのでした。 しかし、同時に、『光』も深手を負っていたので、『闇』を封印した後、すぐに死んでしまい、自らの住む世界の天へと昇っていきました。 こうして、戦いに、終止符が打たれました。 そして、『世界』には、大きく分けて、3種類の力が存在することになりました。 光の力と、闇の力。 そして、そのどちらでもあり、どちらでもないものと…… どれほどの時が経ったのか…… ある時、再び、戦いは起きました。 『光』と『闇』には、それぞれ、『眷属』が残されていました。 最初の戦いのあと、光の眷属も、闇の眷属も、お互いには、干渉しないようにしていました。それぞれの世界の修復にいそしんでいました。 その間、互いの世界を繋ぐ門は、一時的に閉ざされていました。 光と闇の間に生まれた様々な存在たちも、それぞれに、『光』または『闇』と、自分により近い力へとついていました。 近いわけではなくとも、好きな方につくものもありました。 中には、はぐれてどちらにもつかないものもありました。 それらは、『間』(はざま)と呼ばれるようになりました。 彼らは、主に、自分達とよく似た存在である、小さな世界達を管理していました。 相変わらず、小さな世界達は、増えたり減ったりを繰り返していましたが、世界の存亡に関わるような事にはなりませんでした。 光の世界と闇の世界。小さな世界達と、それらを繋ぐ異空間―― まるで、大海に浮かぶ二つの大陸と、大小からなる島々のようでした。 通称として、異空間は、『海』、小さな世界達は『島』(島々)と呼ばれるようになりました。 異空間の中には、大きな流れが二つ見られました。 その内の一つ、時間に深く関わりのあるものがありました。それは、四大の力の内、とくに水、風に近い性質を持っていました。 それは時空の流れであり、渦巻く潮の流れのようであることから、『潮流』(または『海流』)と呼ばれるようになりました。 もう一つは、『海』だけじゃなく、『光』と『闇』両の世界と、『島』の中にも、まるで血管が走るように広がっていました。とても濃い、『力』の塊でした。それは四大の力の内、とくに火や土に深く関わりがあり、『竜脈』と呼ばれるようになりました。 修復もほぼ終わり、互いの世界を繋ぐ門は、開かれました。 かなり長いこと、『世界』は、いたって平和でした。 しかし、長く続いた平和が途絶える日が来ました。 『世界』は、奇妙にバランスを保っていたのですが、闇の眷属が、光の眷属に戦を仕掛けてきたのです。 まるで、かつての『闇』のように……
闇の眷属達は、光の眷属達を倒し、自分達の崇める『闇』を復活させるのが目的でした。 しかし、天より見守っていた『光』の力添えもあり、また、全ての闇の眷属が相手ではなかったこともあり、戦いは光の眷属にとって有利でした。 けれども、光の眷属の中に、闇の眷属へと寝返る者が現れました。 それにより、戦況は苦しくなりました。 しかし、戦いは、光の眷属の勝利に終わりました。 闇の眷属へと寝返った者の内、特に、力の強かった七つの一族の長達は、かつての『闇』のように、封印されることとなりました。 それらは、光の世界の地下へと封じられました。 その封印は、かつて、『光』がした『闇』の封印ほど、強力なものではありません。 しかし、それでも、堕天した長達にとっては、十分すぎるものでした。 封印されることなく、死んでいった闇の眷属達もいました。 同様に、死んでいった光の眷属達もありました。 生き残った闇の眷属は、死なないかわりに、『地上』に出ることを禁じられました。 彼らの世界にある死の次元にほど近いところが居場所となったのです。 地下に住むものもあれば、『海』に漂う『島々』の内、自分に合う世界を選んで、そこに住むようにもなりました。 戦いに参加しなかった闇の眷属は、他のもの達と違い、数少ない、地上に住むことを許された存在となりました。 それらは、光の眷属と協定を結び、今後、互いの存在を脅かさないように誓いました。 光の眷属と闇の眷属は、『間』とも、同様の協定を結ぶことにしました。 しかし、諍(いさか)いは簡単にはなくならないものでした。 『島』や『地下』に追いやられたもの達は、何度も『地上』に出ては、他の存在を脅かし。 地上に住むもの達の中にも、時として、問題を起こす者が顕れたりと、様々でした。 『間』にも、様々なもの達が存在するので、そう簡単にはいきません。 闇の眷属と同様に、問題は生じました。 それでも、世界はそれなりに平穏でした。
つづく
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