2009年01月06日(火) |
チェチェンへ〜アレクサンドラの旅 重信メイトークショー |
チェチェンへ〜アレクサンドラの旅 Alexandra 監督:アレキサンドル・ソクーロフ ガリーナ・ヴィシネフスカヤ
チェチェンのロシア軍駐屯地にいる孫を訪ねる祖母のお話である。 家族が軍へ面会に訪れるのはロシアではごく普通にあることだそうでかなり驚くが、そのおかげで普通ではありえない女性の、しかも長く生きた人の目線を通した、ロシア軍〜軍隊〜戦争といったものが見えてくる。
映画の中でアレクサンドラは将校である孫の案内で駐屯地内の部下や武器など見て回る。 軍隊の知識ゼロ、しかも遠慮一切なしの言動は新鮮でしみじみ素敵だ。 その中で、戦車の中で銃の扱い方を教わるシーンが印象的に残る。 人殺しの道具である銃のメカニズムを「単純なのね」と言い放つ潔さが奥深くもかっこいいぃ。
その後、アレクサンドラは誰の指図も受けず自分の意思で駐屯地の内や外を歩き回る。 軍隊という命令系統で成立している場で、完全に異質の外部者の存在は、戦争という形態の異常さを浮き立たせているようだ。
ソクーロフは全く無駄なことは語らず、静かなトーンで戦争の本質を描いてるように思える。
アレクサンドラ役はガリーナ・ヴィシネフスカヤ。 80歳は超えているはずだ。 もはやこの世に怖いものなど何もなく、諦観も入り混じった威厳ある姿は本当に美しい。
2007年の「ロストロポーヴィッチ〜人生の祭典」は、同じくソクーロフ監督の撮ったドキュメンタリーだった。 今回アレクサンドラを演じたガリーナ・ヴィシネフスカヤとその夫であるチェリスト(指揮者でもある)ロストロポーヴィッチの人生を追ったフィルムである。 余談になるが、このドキュメンタリー映画を見たその日にロストロポーヴィッチが亡くなったというニュースを聞いた。無人島にCDを3枚持っていくならこれ!というばかばかしくも永遠の問いに一時ロストロポーヴィッチの一枚を必ず入れていた時期がある私。訃報に接し、思いもかけずショックを受けていた自分に驚いた・・・。
えっと・・・何が言いたいかというと、そのドキュメンタリーの中で見せる華々しいパーティでの豪華な姿と、この「チェチェンへ〜」の地味な身なりのアレクサンドラ役の彼女は何も変わっていないことだ。内からにじみ出るものが同じなのだ。「人生の祭典」を撮ったときに、ソクーロフは彼女の主演を決めたというが納得である。
ソクーロフ映画の中で、一番面白かった!と私が思えるのは、ひとえに彼女の魅力のせいといってもいい。
ところで、映画の中でアレクサンドラが呟いていた「ある日本の女性の言葉」とは、ソクーロフの「ドルチェ〜優しく」の島尾ミホさんの言葉のことだろうか。島尾敏男の妻で「死の棘」のモデルであり、しまおまほちゃんの祖母だ。
私が見に行った日は、たまたま、上映後に重信メイさんのトークショーがあった。 ちょっとラッキーな気分になる。 しかし、ユーロスペースの入っているビルの入口あたりで、トークショーのポスターを見たらしく「うそぉーっ!」と叫ぶ年配の婦人あり。連れに「どうしよう、かかわり合いになりたくない!」とまで言っているのも聞こえる。そうなのだ。ある一定の年代以上の人にとって、重信メイの母親である元連合赤軍重信房子はいまだにオソロシイ人物なのだなと思い当たる。しかし、その娘のトークショーを聞くだけで公安にチェックされるとでも思うのだろうか。メイさんはすでに日本国籍も取得しており、レバノンと日本の大学院も出て、きちんと仕事もしている女性だ。知的でしかも美しい。 トークショーは、当然ながらメイさんの故郷レバノン含む中東イスラエルの話が中心となり (ちょうど昨年末からのガザ地区侵攻という状況もあり、いたしかたなし)、映画の舞台となるチェチェン紛争にはあまり触れられず。 実は、結果的に私としては、なんら新鮮味のないトークより、静かなトーンのこの映画の余韻に浸っていたほうがよかったかなと思ってしまった。
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