2005年10月11日(火) |
山形国際ドキュメンタリー映画祭(その3) |
ヤマガタ滞在ラストの日
◆「静かな空間」About a Farm [フィンランド/54分]メルヴィ・ユッコネン フィンランドで小規模な農場を営むが閉鎖せざるを得なくなる監督の両親・高校生の妹の病気などを綴りながら、家族の姿を真摯に描いたセルフ・ドキュメンタリー。
◆「ルート181」Route 181 -Fragments of a Journer in Palestine-Israel [ベルギー仏英独/270分]ミシェル・クレフィ、エイアル・シヴァン ルート181という道路をドライブしながらのロードムーヴィーかと思いきや、さにあらず。 第二次世界大戦後、パレスチナをアラブ国家とユダヤ国家に分割した“国連決議181条”に定められた分割線に沿った道路を、ふたりの監督が勝手に“ルート181”と命名。 その道路を南側から北上、ドライブしつつ出会った人にインタビューし続けるという映画。
ふたりの監督はそれぞれユダヤ人とパレスチナ人だ。 そのうちユダヤ人の監督が、ドキュメンタリー好きなら覚えもめでたいアイヒマン裁判を扱った「スペシャリスト:自覚なき殺戮謝」の監督。 パレスチナ人の監督もカンヌ他で受賞経験のある人だ。 これが面白くないわけがなく、4時間半という長丁場があっという間だった。 (途中休憩あり)
ふたりの監督は、インタビューする相手の懐に飛び込み、奥底に潜む意識を引き出す誘導が巧みなのだろう。 そこには、ユダヤ人・パレスチナ人それぞれの肉声があった。 とはいうものの、インタビューは圧倒的にユダヤ人が多い。望む地に住めるから ユダヤ人とひとくちに言っても、右寄りから左寄りまでさまざま。 「南京虐殺はなかった!」と言う脳の梗塞した日本のおっさんと同じように「アラブ人は勝手に出ていった」などと信じ込むユダヤのおっさん。イスラエル建国の夢を抱いて移住してきたものの、空虚な現実に沈むおばさん。 イスラエル軍の強制退去や虐殺の生き残り目撃者の老人。 拷問で失明したものの意気盛んなパレスチナ人女性。 などなどもっともっと多くの興味深いインタビューと共に、カメラは、現在双方を分離する壁の建設現場や、平和団体のデモなどを映し出す。 また、あまりにも危険なので国際法で禁止されているという有刺鉄線(トゲの部分が鋭いナイフのようになっている)の製造現場も凄い。戦争や捕虜収容所で使用が禁じられているのに、パレスチナ人居住区の仕切にはOKという。まるでおもちゃを売るような口調の営業マン。 かつて第二次世界大戦で受けた苦しみと同じ事を、戦後パレスチナ人に向けているイスラエルというユダヤ人の国の姿を浮かび上がらせる。 アメリカ・ひいては世界中のユダヤ人という後ろ盾の力は強大だ。 何度か日本のアジアに対する態度とユダヤ人の姿が二重写しになったりする。現実を都合のいい風に解釈・都合のいい声だけを聞いて暮らせれば楽に生きられるしなぁ。 あぁ、つくづく私って何て言葉足らずなんでしょう。
〜結果〜 ○ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞) 『水没の前に』 ○山形市長賞(最優秀賞) 『ルート181』 ○審査員特別賞 ◇コミュニティシネマ賞 『ダーウィンの悪夢』 ○優秀賞 『海岸地』 『静かな空間』
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