嗚呼!米国駐在員。
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2004年06月03日(木) 「大地の子」

「大地の子」全4巻読了。
読み進めると、昔どこかで読んだような記憶がうっすらとあるのだけど、本を買った記憶もないし、いつの頃読んだのかも全く覚えていない。ただ、今回は中国出張の最中に読みすすめたので、感じるものも多かった。

陸一心は中国残留孤児として中国で生き育ったが、その半生は我々には想像もつかないほど苛烈で悲惨であった。それを乗り越えながら、それでいて我々からは信じられないような人生を送る。

「大地の子」はその中国の戦後の状態、そして現状を実に良く描いている。
それにしても、いつも思うが山崎豊子の丹念な取材と文章の迫力には本当に恐れ入る。陸親子の再会のシーンなどは、何度読み返しても泣かされるし、中国の権力社会も見事に書き上げている。

そういえば、中国が難癖つけてモノを返品してくるのは今も変わらない部分があるような気がするし、先日出張に行った際、実際にある中国企業からは「日本企業はいいモノを欧米に出して、出来の悪いモノを中国に出すから信用できない」と言われて唖然とした。発言した相手は比較的若い世代なのだが、代々親の世代からそんなことを言われてきたのだろうか、心から信じきった表情でそんな事を言われて、慌てて否定したものだ。

一心が最後に「私は大地の子です」といったのも、ただ松本耕次という真の親との決別の意味だけではなく、40数年この広い大地で揉まれ、苦しみながらも生きてきたんだと言う強い思いの現われではなかったのではないかと思う。日本にもし戻れば、中国以上に安定した生活が得られる。中国では少しの行為が「反革命分子」などとされて、密告されることもあるが、日本ではそんなことも無い。

それでも一心が中国で生きることを選択した事に、彼の並々ならぬ決意を感じる。例え苦しんだとしても、それは中国で生きてきた証なんだということを一心は思っていたのかもしれない。また育ててくれた養父陸徳志のためにも、養母や妻、子供のためにも俺はこの国で生きていくんだ。そんな決意を胸に秘めていたと思う。

山崎豊子は取材から完結まで、実に8年を費やしたという。
この小説を書く原動力として、戦争に対する怒り、権力の告発、そして贖罪意識であると語っている。

中国人とは?日本人とは? 日本人は過去に対してどうすべきか。我々はどうすべきか。とても考えさせられる。


Kyosuke