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2005年03月16日(水)  あの日の海 (1)
都会にはほんとの海がない。

主人に聞いてみたけど、
あー、ここからだと電車に乗ってだいたい30分くらいかかるかな?
親切に教えてくれたけど、
「ねぇ、そこって砂浜は?」
ないよ。埋め立ててできた港だから。
砂浜だったら...1時間以上かかるのかな。

だから都会って嫌い。

青い海が見たい。
そう思い始めてもう1年近く経っていた。





「久しぶりー」
わたしはそう言ってマチコの運転する車に乗り込んだ。
後部座席にはタクミも座っていた。
こうやって集まるのは何年ぶりなんだろう。
学生の頃は7人ほどいた仲間たちも、
こんな風に声をかけて全員一度に集まることは少なくなった。
わたしも遠くに嫁いで、「なかなか集まれない人」のうちの1人になっていた。
こうやって来れたのは、ようやく休みが取れたから。
たまには、実家に帰ってハネ伸ばしておいで。
そう言って夫が送り出してくれた。

優しい人。

普通だったら、普段仕事に忙しい妻が休みを取れても簡単に1人で旅行なんて許してもらえないのかもしれない。行き先は「実家」であっても。
でも、わたしは実家がある街ではなく、学生時代に暮らした街へ来ていた。
久しぶりに、この街の空港に降り立ち、ひとり、リムジンバスに乗り街の中心部へ向かう。
どんどん記憶がよみがえる。
よく仲間たちと通った店、ドライブで通った道、...
無くなってしまった店があったり、街の様子は昔より少し洗練されているように感じるけれど、懐かしさが先にこみあげる。

ホテルに着いて、まずマチコに連絡を取った。
彼女は、学生時代に一番よく話をしたコだ。
考え方や感覚がよく似ていて、同じ男の子を好きになったこともあった。

どうしたの?急に。
「休みが取れたから、久しぶりに来たいな、と思って」
そうか。うん、了解!
なんにも聞かないマチコ。
けれど、聞かない代わりに、一日休みを取ってくれた。
「相変わらず忙しそうだね」
うん。まぁね。客商売だから、しょうがないよ。
何も考えずに週末にマチコに連絡を取ったことを少し後悔した。
でもこうやって付き合ってくれるのがうれしくもあった。
どこに行きたい?
「うーん。そうだなぁ...今じゃもうここに詳しくもないからな。」
わかった。じゃあこっちで目星つけておくから。
今日は来たばっかりだし、ゆっくりしなね。


次の日の朝早く、ホテルに迎えに来たマチコの車には
タクミも一緒に乗っていた。
びっくりした?
「うん、まぁね。でもきっと連れてくると思ってた」
さすがはわかってるねー。
そう言って久しぶりに3人で笑った。
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