みのるの「野球日記」
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2004年07月01日(木) 磨いた投球術 〜神奈川大・荻野忠寛〜

 明日2日から第33回日米大学野球選手権大会が開幕する。神奈川大のエース荻野忠寛(4年)も「開催地域代表」として、4日に行われる横須賀大会のメンバーに選出された。
 
 荻野のピッチングは見ていて飽きない。
「自分と同じ考えで投げるピッチャーには今まで出会ったことがないです」と話すように、独特の投球理論を持っている。

「一番こだわっているのは打者とのタイミングを外すこと。150キロ投げても、タイミングさえ合えば打たれてしまう。いかにタイミングをずらすか、それを考えて投げています」

「空振りされると、アッと思います。前に飛ばしてくれよって。一球でも少なく、試合を終わらせたい」

「(カウント2−0からほぼ必ず3球勝負)遊び球を使って、バッターに余裕を与えたくない。余裕がないうちに、ドンドン攻めていきたい」

「キレイなフォーシーム回転のストレートは投げていません。ボールの縫い目の向きに注意して、打者の手元で微妙に動くように投げています」

 先日行われた大学選手権では2回戦の日大戦で敗れたあと(0−1の惜敗)、こんなことを話していた。
「那須野くんみたいに体があって(192センチ、83キロ)、150キロも投げられるような投手が羨ましい。あれだけのボールが投げられれば、自分も投げてみたい。でも、自分にはそこまでの体もないし(173センチ、67キロ)、スピードもない(大学選手権のMAXは140キロ)。その中で勝っていくには、色々と考えてやらないとダメなんです」
 
 試合中、味方の攻撃の際、次のイニングに備えてベンチ前で行うキャッチボールにも荻野の色が見える。ほとんどのピッチャーが軽く肩慣らし程度のキャッチボールをするが、荻野は18.44メートル以上離れて行う。右足でケンケンするようにステップを踏み、右半身に乗せた体重を左半身に移して投げる。それも7割程度の力を込めて、行っている。

「あのキャッチボールは球筋と、体重移動の確認です。距離を離した方が、球筋がよくわかる。18.44メートルでは分からないズレが、距離を遠くすればよく見えるようになるんです」
 荻野の「考えてやらないとダメ」という思いが、このあたりにもよく出ている。

「一番こだわる」と言うバッターとのタイミングについてはこう話す。
「バッターに分からないように、フォームのスピードを変えています。クイックとか目に見えるものではなくて、本当に分からないように、タイミングをずらす。ストレートのスピードや変化球への対応は、今はマシンがあればできてしまう。でも、フォーム自体のスピードを変えてしまえば、対応は難しいんじゃないかな、と思うんです」
 130キロのストレートを投げるにしても、フォームのスピードが変われば、同じ球速でも、様々なバリエーションが生まれることになる。
 
 去年、田口慎一郎(現かずさマジック)とバッテリーを組んでいたときは、驚くことにサインがふたつしかなかったそうだ。
「サインはストレートとカーブだけ。真っ直ぐの場合は、バッターのタイミングを見て、自分がカットボールやツーシームを投げる。それを田口さんが全部捕ってくれたので、サインはふたつでやっていました」

 このキャッチャーについても、荻野独特の考えがある。今組んでいる増渕宏樹(3年)との相性を訊くと、
「結局、投げるのはピッチャーである自分。投げたくないサインには首を振るし、打たれそうだと思えばタイミングをずらせばいい。だから、キャッチャーが変わっても、自分にはあんまり影響がないです」
 要は、球種のサインに頷いても、そこからどんなタイミングで投げるかを選択するのは荻野自身の問題。ストレートひとつとっても、打者の手元でどのように変化させるかは荻野が決めること。となると…、荻野のボールを受けるキャッチャーはもしかしたらツマラナイ?!

 高校時代(桜美林)、荻野とバッテリーを組んでいた大森悠太(明大3年)に訊いてみると、そんな考えは杞憂に終わった。
「荻野さんと組んですごく勉強になりました。ほんとに頭脳的なピッチングで、こんな配球があるのかって何度も思いましたね。尊敬できる先輩です」
 
 ちょっと話し変わって、先日、東芝の高見泰範監督の取材に行く機会があった。高見監督の現役時代(バルセロナ五輪で捕手。主将も務める)を振り返ってもらい、国際大会で感じたことを伺ってきた。その中で興味深かった話が、日本とラテンアメリカ系(キューバ、アメリカ)のピッチャーの違い。

「キューバのピッチャーはバッターのタイミングを見て、組み立てを考えます。配球を考えるのはピッチャー。日本の場合は球種でタイミングを外しますが、キューバやアメリカは同じ球種の中でタイミングをずらしてくる。だから、ピッチャーに際どいコースを突こうという考えがないんです」
 ファーストボールにしても、ちょっとフォームを変えたり、腕の振りを変えたり、スピードを変えたり、ありとあらゆる変化をつけ、バッターのタイミングをずらす。それがキューバやアメリカのピッチングスタイルだという。際どいコースに投げるよりも、タイミングをいかにずらすか。
「だから、キャッチャーは面白くないと思うんですよ」
 そう言いながら、高見監督は苦笑いを浮かべていた。そうか、やっぱりこういうタイプのピッチャーは、キャッチャーにとってツマラナイのか…?!
(*高見監督インタビューの詳細は7月10日発売の『野球小僧』で)

 高見監督の話を聞きながら、なるほどなぁと思いつつ、「荻野の目指しているのはこれなのかもしれない!」とひとりで勝手に興奮した。
 荻野も「ぼくは四隅のコースに狙って投げないんです。いかにもバッターが手を出しそうなところに投げて、凡打を誘う。四隅にいいボールがいくと、バッターは見逃してしまうので球数が増える。ラクしたいってわけじゃないですけど(笑)、少ない球数で終わらせたい」
 う〜ん、非常に考え方が似ている。
 
 はたして、荻野の投球術が米国相手にどこまで通用するか。
 高見監督の話から考えれば、荻野のようなタイプこそ、米国が「見慣れている」タイプとも言える。タイミングをずらすこと、あるいはストレートに微妙な変化を加えることは、米国では珍しくないからだ。
 
 ただ、荻野独特の一度浮き上がってから、ストンと落ちてくるタテのカーブは、米国も相当面食らうはずだ。高見監督も「ラテンアメリカに有効な球種はタテの緩いカーブ」と話していた。そんなことを考えれば考えるほど、荻野がどんなピッチングを見せるか、非常に楽しみになってくる。
 日本代表を率いる山路監督…、荻野をぜひ先発で使ってください!


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