センバツ出場校発表の翌日、スポーツ新聞を読んで驚いた。センバツ2連覇を狙う広陵の主将・上本が「キャッチャー転向」と書かれていたからだ。上本といえば、旧チームから不動の1番セカンドとして活躍し、2年生ながらただひとりAAAに選ばれた選手だ。今年の広陵は、西村ー白濱がいた昨年と比べ、「バッテリーが落ちる」と言われている。でも、だからといって、あの上本をキャッチャーにするとは…。
『ホームラン』の12+1月号を読んでいたら、秋季大会終了後の中井監督のコメントが出ていた。1年生で4番を打つ藤川についてだ(秋季大会では背番号1をつけていた)。
<本当は中国大会が終わったら藤川を捕手にコンバートしようと思っていた。ただ今日の投球とほかの投手のことを考えたら、藤川はしばらく投手兼外野でやってもらう>
そしてもうひとつ。中国大会の『こぼれ話』の中で、「3度の打撃妨害を取られ涙」という記事もあった。要約すると、
<中国大会での正捕手・河野は県大会では一塁を守ることが多かったが、今大会は捕手に専念。準決勝までは無難にこなしたが、決勝で3度の打撃妨害をとられた。「本人は当たっていないといって泣いていました。これで成長してくれたらいい」(中井監督)>
中井監督の中で、現チームの最大の課題は「バッテリー」。中国大会で起用した河野が、決勝戦で弱点を露呈し…、藤川は投手兼外野で使うことを決断。残った選択肢の中から選んだのが、セカンド上本。この一冬で、どれだけ捕手としての技術を身につけることができるか、非常に興味深い。旧チームの正捕手・白濱も、シニア時代はショート。高校入学後、捕手に転向した選手だ。白濱の例があるだけに、中井監督も自信があるのかもしれない。
しかし…捕手というポジションはそんなに簡単(もちろん簡単ではないが)にできるものなのだろうか。捕手から内野手、外野手に転向するケースはよく耳にするが、その逆はあまり例がない。でも、最近はよくあること…のような気もする。 昨夏、甲子園に出場した東海大甲府のエース佐野恵太が、秋から捕手に転向した。「強肩を買われた」ということだが、エースを捕手にするとは…。 同じく夏の甲子園に出場していた横浜商大の宮本憲人捕手は、夏の県大会の3ヶ月前にサードから捕手に転向した。この宮本がいなければ、甲子園出場はなかったと言えるくらいの活躍を見せた。正しくいえば、エース給前の力を引き出した。給前は「宮本は投げやすいし、何でも言いやすい」。金沢監督も「宮本がキャッチャーをやってから、給前がよくなった」という。 年明けの新年会で中学校の先生が金沢監督に「どうして宮本をキャッチャーにしたんですか?」と訊いていた。金沢監督の答えは「勘だよ」と一言。いや、もちろん、肩の強さや体の強さに魅かれる部分はあったと思うが、「勘」が働いたことも事実だと思う。人には教えることのできない「勘」がベテラン指導者にはあると思う。
中学野球の場合、キャッチャーは内野手や外野手からコンバートされることが非常に多い。チーム状況もあるが、3年間キャッチャーをやる選手はなかなかいない。「足首の柔らかさ」「肩の強さ」が転向の条件のように思うが、中学野球では「判断力」「野球の理解度」「視野の広さ」など、技術よりも頭の部分で選んでいるように見える。
「キャッチャーをやることで野球も覚えるし、視野が広がる」とは佐相先生の言葉。今年中学3年の東林中のキャッチャーは、旧チームではサードを務めていた。高校では「キャッチャーはやらない」という。でも、彼にとって、野球を学ぶうえで、キャッチャーを経験したことは非常に大きかったはずだ。
上本もこれから大学、プロでやるにしても、キャッチャーで生きていくとは思えない。もしかしたら、キャッチャー上本はセンバツの一時期だけかもしれない。でも、その一時期にセカンドとは全く違う視野を経験することで、上本の野球人生がよりよい方向へ進んでいくものになれば、「いいコンバート」といえる。いずれにせよ、キャッチャー上本を試合で見るのが楽しみだ。
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