2003年11月01日(土) |
秋季関東大会(1) 埼玉栄を支えるサードコーチャー |
◇秋季関東大会1回戦(11月1日 上尾市民球場) 文星芸大付 000 001 001 2 埼玉栄高校 000 030 00× 3
試合中盤から、サードコーチャーが気になり始めた。 埼玉栄の背番号16を着ける明賀忠彦(2年)。打者に1球1球大きな声で檄を飛ばし、ランナーが出ると大きなアクションで指示を送る。コーチャーズボックスに立つとあらゆるところに目を配る。三塁側ベンチにいる監督、バッターボックスにいる打者、そして文星芸大付の守備陣と、目を常に動かし、次のプレーを予測する。 5回頃だったと思う。明賀の声が、ネット裏にいた私の耳にやけに届くようになった。はじめは何と言っていたか分からなかったが、集中して耳を傾けると、こんなことを叫んでいた。 「狙え〜! 狙え〜!」 「引き付け〜! 引き付け〜!」 ん? もしや球種を教えているのか……(もちろん禁止)。 「狙え〜!」のときはストレート、「引き付け〜!」のときは変化球系。5回裏、埼玉栄が3点を先取したとき、この読みがほぼ完璧に当たっていた。 6回以降、明賀の声と、投手の球種に注意して見ると、当たるときと当たらないときがあった。5回はたまたまだったのかな……(あとで明賀本人は「全然適当です。プレッシャーかけるために叫んでいただけですよ」と苦笑い)。 試合後、埼玉栄・戸栗監督に明賀のことを訊いた。 「明賀はチームにとって欠かせない存在。野球をよく知っているから、新チームになってからサードコーチャーとして起用している」 強いチームには必ず優れたサードコーチャーがいる。戸栗監督は「野球をよく知っている」ことに加え、「明賀には野球を見る目がある」とも言った。監督の言葉から、明賀への信頼の大きさが窺えた。
戸栗監督への話を訊き終えたあと、三塁側選手入り口の方へ行くと、栄の選手がユニホーム姿で集まっていた。「明賀くんいる?」と声をかけると、「あ、いまそこで写真撮っているのが明賀です」と控え選手が教えてくれた。 間近で見る明賀は、思い描いていた通りの選手だった。体全体から、「熱さ」「真剣さ」が伝わってくるような選手。戸栗監督が信頼するのは、「野球を見る目」以外に、明賀の持つ人間性にもあるのでは、と感じるほどだった。
監督の話を明賀に伝えると、 「サードコーチャーは1点入るか入らないかを左右する大事なポジション。そこを任せてもらっているのは、すごく嬉しい」と満面の笑みを浮かべた。 監督の言葉通り、サードコーチャーに就いたのは新チームになってから。 「もともとはセカンドをやっていたんですけど、腰を痛めたこともあって、いまはコーチャーに専念です」 グラウンドでプレーできない、もどかしさはないのだろうか。 「チームが勝つために、力になれればそれで良いんです。サードコーチャーはそれくらい責任あるポジションですから」 コーチャーとしてのプライドを覗かせた。でも、あとにこうも続けた。 「まだ、選手としてグラウンドでプレーすることをあきらめたわけじゃないです」 最後に将来の目標を訊くと、こんな言葉が返ってきた。 「まだ考えたことないです。とりあえず、いまは甲子園に行きたい。それだけです。甲子園でチームの力になりたい」 明賀はどんな質問にも真っすぐ前を向き、しっかりと目を見て答えた。いい意味で、今どき珍しい高校生だと思う。勝敗を左右する重要なポジションを任せるには、うってつけの選手とも感じた。甲子園で活躍する明賀の姿を見てみたい。
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