みのるの「野球日記」
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2003年07月17日(木) 桜の夏、終わる(桜丘vs桐蔭学園)

 試合後、桐蔭学園の控え通路の前に、桜丘の齋藤比呂樹主将が女子マネとともに立っていた。手には、千羽鶴。「SAKURA」と書かれた主将のユニホームは、保土ヶ谷球場の土がまだ残ったまま。目は真っ赤だった。
「第1シードということは、全然頭にありませんでした。完全な力負けです……」
 話しをしながら、だんだんと目が潤んでくる。それでも、ひとつひとつの言葉ははっきりとしていた。
「勝負に行って負けたんで、しょうがないです。悔いは必ず残るものなので、振り返ってもしょうがないです」
 悔いは必ず残るもの……。重たい言葉だと思った。
 
 創部初の第1シードで臨んだ夏の初戦、センバツ出場校・桐蔭学園に0対7で7回コールド負けを喫した。完敗だった。甲子園に最も近い公立校の夏は、あっという間に終わった。
「桜丘での3年間を振り返ると……、濃い3年間でした。野球ばっかりやってました。みんなと一緒に野球ができて良かったです」

 通路から、桐蔭学園の栗原健主将が出てきた。
 千羽鶴を手に、栗原のもとへ近づく。お互い満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。絶対、甲子園行くからな」
 栗原の言葉に、「ありがとう」と齋藤も笑顔で答えた。

 千羽鶴を渡し終えると、駆け足で仲間のもとへ向かった。
 一塁側控え通路の前には、桜丘の野球部員、応援団、生徒らが集まっていた。齋藤が戻ると、引退式が始まった。
 齋藤は、桜丘を応援してきた大勢の人たちを前に、挨拶をした。
「こいつらと一緒に野球ができて良かったです。3年間、精一杯やってきたので、これから胸を張って……」
 涙で声が途切れ途切れになる。周りからも、すすり泣く声が聴こえてくる。
「野球部は周りの人たちに支えられて、ここまでやってこれました。本当にありがとうございました」
 
 続いて、応援団長らが野球部に声をかける。
 そして、最後に、応援団の指揮で、グラウンドで歌えなかった桜丘高校の校歌を歌った。
 周りを見ると、応援団、チアガール、制服を着た生徒が、幾重にも野球部員を囲んでいた。涙を浮かべながら、校歌を歌い、引退式が終わった。

「チームが勝つことができなかったので、悔しさはありますけど……、今までやってきたことには、胸を張って、自信を持ちたいと思います」
 1年間、正捕手としてチームを支えてきた佐野翔伍は、しっかりと前を向いて、そう話した。
 引退式で、応援団が言っていた言葉がある。
「今日は負けたけど、お前らすごいよ。かっこいいよ。春にベスト4まで行って、第1シードとったんだよ。胸を張っていいんだよ」
 その通りだと思った。創部初の第1シードという、桜丘野球部にひとつの歴史を刻んだ。

 佐野に話しを聞いていると、斎藤も口にした「勝負にいったから」という言葉が出てきた。
 7回表、桜丘が7点を追う攻撃で、1死一、三塁というチャンスがあった。ここで1点でも取らなければ、コールドゲーム成立。内心、スクイズで1点を取りにくるのではと思った。ここまで来れば勝つことよりも、ゲームを続けることが先決。
 それでも、桜丘ベンチは動かなかった。
「あの場面、スクイズしたって勝てない。勝つには、あそこで打って、点を重ねるしかないんです。9回が終わったときに、勝つつもりでいつも野球をやってますから」
 佐野はこうも続けた。
「当って砕けろとか、負けてもともととか、そんな考えでは野球をやっていません。監督からもそんな言葉は3年間、一度も出ませんでした。私立、公立関係なく、いつも勝負してます」

 それでも、実力では及ばなかった。
 斎藤が「完全な力負け」と認める桐蔭との差は、どこにあったのか。
「スイングスピード、打球の速さ。すべてにおいて違いすぎました」と斎藤。
 マスク越しから、桐蔭打線と対戦した佐野は、
「予想以上の打力でした。思っていた以上です」と力の違いを認めた。

 横浜、桐蔭学園、東海大相模、桐光学園、日大藤沢、横浜商大……など、全国レベルの私立がひしめく神奈川において、公立高校が甲子園を掴む日はいつ訪れるのか。
 
「甲子園の夢は後輩たちに託します。また応援よろしくお願いします」
 引退式で、齋藤は力強く言った。
 甲子園出場が途絶えた日、甲子園への新たな道がスタートした。


◇神奈川大会2回戦
 桜丘 000 000 0  0
 桐蔭 211 210 × 7

 


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