世界フィギュアを見た。サッカーの日本代表戦が終わった後、TBSは間髪入れずに世界フィギュアを持ってきた。チャンネルを替える暇を与えないように。スポーツファンをTBSにとどめておくために。
7時57分から放送開始。すぐに本田武史が登場。4回転ジャンプで着地に失敗し完璧な演技とはいえなかったが、最終的に3位となり日本人男子25年ぶりのメダルを獲得した。 本田に次いで登場したのが、ソルトレーク金メダリストのヤグディン。リンクに立ったときから、醸し出すオーラが違っていた。本田とは比べものにならないオーラ。世界王者が作り出すリンクの雰囲気。自信漲る容姿。演技も最高だった。4分半の間、ヤグディンの演技に見入った。フィギュアの詳しい技術については全く知識がないが、そんなことは知らなくても演技に引き込まれた。 大きな拍手を浴びながら、4分半の演技が終了した。明らかに、本田よりも観衆は沸いた。すばらしい演技に素直な反応を示した。私もTVの前で、自然に拍手を送りたくなるような気持ちだった。演技が終わったあとの余韻に浸りたい気分だった。 だがTBSは、何を思ったか。演技が終わった瞬間、CMに切り替えた。何の前触れもなく。私はあっけにとられた。「え?何でCM?」 スポンサー契約の関係で、CMを入れるタイミングや時間を守らなければいけないのは良くわかる。けど、何も今入れなくても……、と思うほどの最悪なタイミングだった。高校野球で言えば、試合終了後両校がホームベースを挟んで挨拶をする。健闘を称いあい握手を交わそうとした瞬間にCMへ、という感じだろうか(実際にはNHKだから有り得ないが)。
目の前で(生でもTV中継でも)素晴らしいプレーや胸を熱くしてくれる試合が繰り広げられたとき、しばらくその余韻に浸りたくなるときがある。ゲームセットの声で形式上、試合は終わる。でも、選手が球場を去るまで、次の試合のチームの練習が始まるまで、その試合が作り出した雰囲気はずっと続いている。ヤグディンの演技は確かに終わった。終わっていた。でも終わった瞬間にCMを入れるなんて……。
甲子園史上に残る名勝負と言われる98年夏の甲子園準々決勝、横浜対PL学園。延長17回の死闘。試合終了後、両チームの選手がホームプレートを挟み挨拶を交わしたとき、観客から沸き起こった拍手。PLの選手がアルプススタンドだけでなく、内外野の観客にまで一礼をしたときに送られた拍手。延長17回の名勝負はそれらすべてを含めての名勝負だったと思う。
突然のCMは、テレビの前でヤグディンの演技に見入った人たちの余韻を完全に打ち消した。
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