加藤のメモ的日記
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2023年05月23日(火) |
寂しさが人生の味わいに |
孤独という自由を、満喫した人たち
「連れ合いのと死別についての取材は、今はほとんど断っているんです。私にとってはもう、過去のことですから」こう語るのは2018年に『おらおらでひとりいても』で芥川賞を受賞した、作家の若竹千佐子さん。(67歳)だ。若竹さんが小説を書き始めたきっかけは、55歳の時に夫に先立たれたことだ。「以前は小説を書くときに『夫がどれだけ素敵な人だったか』と昔のことばかり思い出していました。
しかし自分の作品が広く読まれるようになってからは、過去にこだわらず、自由に書けるようになりました。悲しみに暮れていた時から脱皮して、新しい自分に生まれ変わった気分です」連れ合いに先立たれ、一人になる。深い絶望感に沈むのも仕方ない。だがその先の人生には「孤独という自由」が待っている。その時間がいかに心地よいものか、経験者は知っている。
6年前、眼科医の西田輝夫さん(74歳)は、妻を亡くした。強い喪失感から立ち直り始めたのは、妻の死から2年を過ぎたころだったという。「毎月行っていた墓参りの回数がだんだん減っていき、妻との日々を過去の記憶として昇華できるようになったのです。仕事以外にも、角膜手術が必要な患者を支援する『アイバンク』と呼ばれる社会的活動にも取り組むようになりました。書道を始めたのも3年前でした。体力はいらないし、空いた時間でできる。コロナ以前は、書道教室で先生やほかの生徒さんたちと交流できるのも魅力でした。朝起きて『今日も一日楽しもう』と思う毎日を、この先10年も積み重ねていけばいいなと思います」
悲しみはいつしか消え、寂しさは人生の味わいになる。2007年に妻で詩人の桂子さんを亡くした、小説家の三木卓さん(86歳)は語る。「子供や妻や仕事といった社会的責任から解放され、自由になっていくことを実感しています。遊びながら帰り道を歩いている少年時代も戻っていくような感覚です。妻のことは、没後5年たって『K』という小説に書きました。でも、あの人がどういう人かは、いくら考えてもわからなかった。時々、妻のことを思い出し、『あの時、何を考えていたんだろう』など一人で考える。それもまた、かけがえのない時間なのです」準備さえあれば、一人で生きるのも悪くない。
『週刊現代』7.10
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