加藤のメモ的日記
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友達もいなくなくなり
前出の番組で紹介された破産の当事者の姿は衝撃的だった。番組の冒頭、カメラは東京都港区のアパートに住む田中誠さん(仮名/83歳)のもとを区の相談員と訪れる、。全国的に見て高齢世帯のうち単身世帯の割合が高い港区では、孤立対策として聞き取り調査を行なっている。カメラに映し出されたのは、ゴミ屋敷になる一歩寸前までモノが散乱し、足の踏み場もない一室。そこで田中さんは小さく縮こまっている。痩せていて、顔に覇気がない。心配した相談員が尋ねる。
―暮らしぶりはいかがですか? 「贅沢はできないねぇ」 ―もしかしたら電気を止められていませんか? 「そのままにしています。夕飯の支度をする時はガスの炎を頼りにすれば、なんとか調理できるよ」 ―ちゃんと食べれていますか? 「こういう時が来るんじゃないかと思って、ヒヤムギを買い置きしておいたんだ。それでなんとか助かっているよ……」 田中さんの頼みの綱は、会社員時代に払った厚生年金を含めた月10万円の年金収入だ。家賃6万円を引けば、4万円しか残らないため、一日500円以下の切り詰めた生活を送っている。
田中さんは、特に変わった経歴の持ち主というわけではない。ビール会社で正社員として23年間働いたのち、40代半ばで独立し、飲食店の経営を始めた。だが、赤字が続いて倒産し、退職金も使い果たした。田中さんは番組スタッフに一枚の絵を見せた。黒い背広を着て、口ひげを生やした男性の肖像画。絵が趣味だった田中さんが「社長となった自分老後」を想像して描いたものだ。「まさか現実がこんなことになるとは夢にも思っていなかったね」
絵を見つめ、こうつぶやく田中さんに今の生活で何が一番辛いか、と番組のスタッフが尋ねる。「友達がいなくなったことだね。貧しさを知られたくないから、付き合いを避けてしまった」年金支給日の前日、食べ物を買うカネも尽きた田中さんは、部屋で横たわったまま動かない。「やることはすべてやったんだから、早く死にたいというのが正直なところです。でも自殺するわけにもいかないしね。今抱えている不安をなくすためには、死んじゃったほうがマジだ…」
彼らは決して特異なケースではない。普通のサラリーマンであっても老後破産状態に陥る可能性はある。そう警笛を鳴らすのは山田知子放送大学教授だ。「たとえ大企業の部長職まで出世した人であっても、老後破産と無縁というわけにはいきません。住宅ローンを退職金で払い終えたら、残りの金額は心もとないという方は多いのではないでしょうか」当然中小企業のサラリーマンはもっと危険で、年金収入に頼る状態では、いわば薄氷の上を歩いているようなものです。親の介護や子供の就職失敗など想定外の出来事で、当初の予定が容易に崩壊するからです」
多くの人は、何をきっかけに破産に追い込まれるのか。まず直面するのが自身の健康問題だ。西垣千春神戸学院大学教授が解説する。「高齢者にとって、健康問題は避けることはできません。それまで元気でも急に1人で歩けなくなる人もいますし、90歳を超えるとおよそ半数が認知症になると言われています。家族を家族と離れて暮らしていれば、健康の変化がなかなかわからない。そのため、周りの人が気づいた時には、破産に至っていたというケースは決して少なくありません」
子や孫には言えない…
実際、本誌が取材した中で次のような事例があった。愛知県に住む浅田隆さん(仮名73歳)は卒業後、警備会社に就職し、定年後も再雇用制度を利用働き続けていた。しかし、腰痛が悪化して欠勤の日が増え、会社にいづらくなり、2年で自主退職した。以来、退職金と年金収入のみで暮らすようになる。そんな浅田さんが破産に至るまで10年もかからなかった。浅田さんを保護したNPOの担当者が語る。「浅田さんの場合、腰痛の治療費に加え、退職後しばらくしてから軽度でしたが、認知症を発症したしたのが、破産に至った大きな要因でした」
浅田さんは妻を60歳の時なくし、子供も離れて暮らしていたため、誰も苦境に気付かなかった。「息子さんも盆や正月に帰省した時に『少し金遣いが荒くなった』とは感じていたそうですが、『やっと退職したんだから自由にさせてあげよう』と放っておいたそうです。しかし判断力の低下による無駄遣いや保険の使えない鍼治療などで、あっという間に退職金は底をついてしまった。食うや食わずの生活をしていた浅田さんが万引きで捕まったときに、私たちの団体に引き渡されて、破産がやっと発覚したんです。
捕まった時も『子供や孫に恥ずかしいから言わないでくれ』と懇願されましたが、連絡を取りました。面会に来た息子さんに対して、『たった10年でどうしてこんなことに…』と嘆いていました。
破産に至るきっかけは、病気だけではない。頼りになるはずの子供たちもリスクになりうる。神奈川県にする小野宏さん(仮名/69歳)は、都内の建設設計事務所の正社員として定年まで勤め上げた。現役時代は、よく働きながらも同僚と飲んだりと、サラリーマン生活を謳歌していた。退職時には、退職金を含めて2500万円ほどの貯金と、株券や保険などを合わせて総額4000万円ほどの資産があった。小野さんが語る。
「家は持ち家だし、庭の畑で野菜を作っているし、生活費は光熱費とガソリン代、そして趣味のゴルフや付き合いの飲み代ぐらいなものでした。二人の子供たちも独立しており、何年も前にローンは完済。今まで懸命に働いてきた分、『さあ、これから老後を楽しもう』と暢気に考えていました。そんな小野さんが「いまほど苦しい時期はない」と語るようになるまでに、何が起こったのか。小野さんが続ける。
「きっかけは、すでに独立し家庭を持っていた息子が起こした交通事故でした。100%こちらに責任のある事故で、相手は障害を負ってしまいました。しかも、運の悪いことに息子は1ヵ月前に保険が切れていたんです。医者利用に1000万円、相手に治療代や入院費、障害が残ったことで必要になった家の改築費など、総額で5000万円も相手から請求されました。これをすべて払わないといけない。裁判をしても仕方ない。息子の過失責任は逃れられないと覚悟し、そのまま払うことにしました」
毎月30万円の賠償金を払うため、息子の給料はほぼ天引きされている。子供いる息子家族は住んでいたアパートを出て小野さんの一軒家に同居することになった。小野さん自身も貯金や保険をすべて解約したが、5000万円には到底足りなかった。「大事にしていたゴルフクラブもまとめて売りに行きました。何千万円もしたパターが2000円という悲しくなるほど安いカネしかならず呆然としました。会社時代の仁元関係も、カネがかかるので畳みました。正直なところ、当初は『こんなことがあっていいのか』と、相手をずいぶんと怨みました。ですが、責任を強く感じた息子が、休みの日もトラック運転手のアルバイトをしている姿を見て、私も生きているうちにできる限り助けてやりたいと思うようになり、早朝のチラシ配りのバイトを始めました」
現在小野さんは、チラシ配りに加えて、隣町にあるコインパーキングの管理人のアルバイトもしている。孫を含めた一家5人にとって、小野さんの年金は、大きな収入源の一つだ。「孫に『おじいちゃん!ファミレスに連れて行って』とせがまれても、『いいよ』とはなかなか言えない。貴重な生活費が何日分かとんでしまいますからね。『外食は身体によくないからね』と適当な言い訳をしてなるべく断っています。本当に情けなくなります。これで持ち家でなかったら、さらに悲惨な状況になっていたと考えると、本当に恐ろしい…」
息子の会社が倒産して
小野さんのように持ち家が命綱になる場合もあれば、逆に持ち家が大きな足かせになる場合もある。都内に土地と家を持っていた大八木ハルさん。(仮名/85歳)は、介護が必要なうえ、持病の心臓病の不安もあり、40代の息子夫婦と同居することを決めて、千葉の高級住宅地に二世帯住宅を購入した。息子と八木さんの二人の名義で住宅ローンを組み、子供に見守れながら老後を送るはずだった。だが、これが破産への引き金となった。大八木さん一家の相談を受けた、ケアマネージャーオフィス「ポケット」代表の上田博美氏が語る。
「毎月20万円のローンを組んだのですが、息子さんの勤めている会社が不況のあおりを受けて倒産するという不運に見舞われたんです。大木さん預貯金をローンの返済に充てたのですが、おかげで老後のために取っておいたお金はゼロに。それでも足りずにお嫁さんも働きに出ています。大木さんはひと月140万円近くかかる介護サービスを受けています。心臓病だけでなく、認知症もあるのでもっとサービスも必要なのですが、家計の都合もあって満足に受けられない。生活保護を受けてもいいくらいの水準です」
意外に知られていないことだが、住宅ローンがあると生活保護を受けることができない。というのも、その状態で生活保護を受けると税金で個人の資産を形成していることになってしまうからだ。上田氏が続ける。「生活保護を受けるために世帯分離という方法もあるのですが、この年で家族と離れて暮らすのも厳しいでしょうし、ご本人も 『オカミの世話にはならない』といっています。大木さんのようにプライドがあって、『施しは受けない』『世間さまに申し訳が立たない』という人は多いですね」
前出の香川さんたちのように、だれにも頼れず、自らカネに困っていることを声に出せない人だけではない。大木さんのように、家族と同居していてさえ、破産の危機と無縁というわけにはいかないのだ。大木さんは別れ際、大きなため息をつきながら次のように答えた。「こんなに長生きするなんて思ってもみなかった。もっと早くコロリと逝くはずだったのに、85歳にもなってこんなに苦労する目に遇うなんて……」これが老後破産に陥った多くの人の本音だろう。超高齢化社会が生んだ厳しい現実は、あなたのすぐそばにまで迫っている。
『週刊現代』10.11
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