加藤のメモ的日記
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2014年02月09日(日) 医者の限界を知る ��

上手な患者になるために

医者と上手に付き合えれば、いい結果が出るに決まっている。だが、どうやったら、うまく付き合えるのか。難しくはない。相手のことを理解すること。まずは医者の事情を知ることだ。

治せないことを知る

「もう、手の施しようがありません」そういわれて、「はい、そうですか」と受け入れられる人はどれだけいるだろうか。目の前に迫った死に戸惑い、パニックに陥る。再発した肺ガンで、抗ガン剤治療を受けていた土井憲司さん(仮名・65歳)もそんな一人だった。抗ガン剤が効かなくなり、副作用に苦しんでいた土井さんは、大学病院から日の出ヶ丘病院(東京西多摩郡)のホスピスに転院してきた。モルヒネの投与によって、一時的に症状は緩和され、土井さんは「何か治療をすれば、肺ガンを克服することができるのでは」と考えるようになっていた。だが、その間もどんどんガンが体を蝕み、もはや抗ガン剤に耐えられるだけの体力は残っていなかった。

「肺ガンを治してほしい」相談された同病院の小野寺医師が、もうガンを治すことはできないのだ、ということを告げても聞く耳を持たず、「ここにいる価値はない」と叫んで妻の制止も聞かずに退院した。その後、土井さんは免疫療法や気功など東洋医学が売りの病院などを訪ね歩いたが、どの病院でもできるのは延命だけと言われ、「治す方法がないなら、すぐ殺すよう医者に頼め」と妻を怒鳴りつけて騒ぐまでになった。結局、最後は再びホスピスに担ぎ込まれ、混乱の中で亡くなっていった。

他人事ではないだろう。前でのホスピス医・小野寺医師によると、余命数週間の状態になっても、どうしても死を認められず、「それでも何か手だてがあるのでは」と探し回り、治療にすがろうとして亡くなる人は少なからずいるという。「手立て」とは何者なのか。その筆頭は、「神の手を持つ名医」に診てもらうことかもしれない。しかし、どんな名医も決して神ではない。そこには自ずと限界がある。「名医」その人たちに話を聞くと、「ガンの治療は限界だらけです。その限界を少しでも先延ばししようと研究が行なわれていますが、それも限界はあるんです」

そう話すのは、ガン・感染症センター都立駒込病院の名誉院長、森医師だ。大腸ガン手術数は日本最多の2500例。5年生存率も世界でトップクラスという斯界(しかい)の権威である。森医師は、ほぼ助からないだろうと言われた末期の大腸ガン患者を手術したことがある。絶望的だった患者が術後8年を生き、最後は再発して亡くなっていった。「でも家族からは『再発を見逃すとは何事だ。医者の責任を追及する』と責め立てられました。私は何も言わず黙って聞いていましたが、心の中ではずっと診てきたその患者さんに、『8年間は楽しく過ごせましたか』と語りかけていました。そんなものです。医者は神様ではないのですから」

医者は神様ではない。それは、患者から頼られることの多い名医ほど実感することである。昭和大学横浜市北部病院副院長の工藤医師もこう語る。「大腸ガンの末期で入院していた30代の女性の患者さんは入院中、枕元にお子さんの写真を飾っていました。結局そのまま家に帰ることもできず亡くなってしまいましたが、こういうときは『神様はやはりいないのか』とか、『どうしてこんな若くして』と思わされます。

約半数は助けられない

ガンには、ここから先は助からないという、冷酷なラインがある。「早期の大腸ガンなら100%直ります。しかし、早期ガンの場合、半分ぐらいは症状がない。だから気付かずに症状が出るまで放置すると、全体の2〜3割は肝臓など周囲の付きに転移している。その場合は、助かることは少ない。だからこそ、症状が出てから名医を探すのではなく、定期的に内視鏡検査をしてほしいと工藤医師は力説するのだ。

肝臓ガンの権威で、99.9%という脅威の手術成功率を誇る医師にも、お手上げという状態はある。「術中エコーによる幕ない術式」という画期的な手術法を編み出して、肝臓ガン治療そのものを変えたことで知られる日本赤十字社医療センター院長の幕内医師がその人だ。「私に過度の期待を持ってこられる患者さんもいますし、中には神の手で治してくださいという人もいます。でも肝臓ガンの場合、医者にできることと、できないことは非常にはっきりしているのです。肝臓の画像を見ただけで、これは手に負えないというケースはいくらでもあります。その場合は『進みすぎています。もう直りません』と言います。私のところに来る患者さんの約半数は、このケースです。

幕内医師によれば、この30年間でそれまで救えなかった患者の半数ぐらいは救えるようになったという。長足の進歩だが、それでも残りの半数は、依然として限界の向こう側にいる。それが現実なのだ。脳卒中はどうか。例えば脳梗塞の場合、限界は倒れてから病院に運ばれるまでの時間できまる。「t-PAという血栓を溶かす薬があるのですが、この薬が効果を発揮するのは、発症から3時間以内なのです。ということは、病院には発症から2時間半以内に運ばれないと難しい。いま、9時間以内まで使える薬を開発中ですが、まだまだ時間がかかります。ですから、脳卒中の治療は限界だらけなのです」こう語るのは、脳卒中治療の名医として知られる聖マリアンナ医科大学・神経内科教授の長谷川医師だ。

仮に時間に間に合ったとしても、だから助かるとは言い切れない。脳のどの部位がやられたかで、予後が決まるからだ。「脳の画像を見ただけで、これは寝たきりになるとか、亡くなるということがわかります。大きな血栓が二つも血管を塞いでいるとか、生命維持を司っている脳幹で出血が起ったりしたら難しい。つらいのは、それを患者さんやご家族に伝えるときです。当日は動揺が大きくてとても伝えられませんから、3〜4日間をおいてから説明します。ご家族も患者さんだと思って接するのです」その際、曖昧な伝え方はできない。「曖昧な説明だと、ご家族が『もしかしたら治るのではないか』と勘違いをしたり、余計に混乱したりする。それでは、適切な治療に導けなくなるのです。家族への告知―これも医師が医療の限界に直面する典型的な場面の一つなのである。


『週刊現代』


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