加藤のメモ的日記
DiaryINDEX|past|will


2013年09月14日(土) 東大医学部は第二の原子力村と化した ��

論文は薬の「販促ツール」

「民」と「学」がべったりと癒着する背景には、「官」の絶大な権力があります。これも原子力村と変わらない構造です。日本では中央官庁の役人が医療の価格をすべて一律に決めています。こんな先進国はありません。例えば、薬価を決めているのは中央社会保険医療協議会ですが、その人事権を掌握しているのは厚労省の技官(医師や薬剤師資格を持つ厚労官僚)です。中医協の薬価決定は国会のチェックも受けないため、その権限は絶大です。彼らが研究費も分配します。製薬会社も教授も技官にすり寄ります。

薬価は政府が一律に決め、製薬会社は自由な値引き競争ができません。するとどういうことになるのかというと、価格競争の代わりに、製薬会社による医師への営業競争が始まるんですよ。以前は飲ませ食わせという接待合戦でした。高級ホテルの最大のクライアントは製薬会社。京都の先斗町の料亭なんかも、製薬会社の接待で埋まっていたといいます。ところが最近は、製薬協が定めた接待規制のガイドラインができ、大ぴらに接待ができなくなったんです。

代わりにでてきたのが、「奨学寄付金」です。奨学寄付金とは、製薬会社から大学に研究費を提供できる制度で、バルサルタンの臨床研究も、ノバルティスファーマ社から提供された奨学寄付金が使われました。京都私立医大など5大学に対して支払われたのは、計11億3290万円にものぼっています。奨学寄付金は一見、研究支援のように聞こえますが、実態は製薬会社の営業経費です。大学担当の営業担当が持っている予算で、自社製品の処方と引き換えに、”研究に使ってください”と医師に持ちかける。読売新聞の拡張員が、巨人戦のチケットや洗剤を持って行くのと同じです。

もし、奨学寄付金を使った臨床研究論文で、ポジティブな結果が出れば、製薬会社にとっては、儲けものです。論文が薬の”販促ツール”になる。こんなことをやっていると、研究結果には製薬会社のバイアスがかかって当然です。ただ、これもやむを得ない側面あります。大規模な臨床試験は費用がかさみ、製薬会社からのサポートがないと難しいからです。大学と企業が癒着する構造的問題です。

東大がデータに”化粧”

論文捏造の動機は往々にしてカネですが、もう一つは「出世」です。論文業績が多いと評価されやすく、研究費も獲得しやすくなる。身内の恥になりますが、「東大開学以来最悪の不祥事」といわれる加藤元教授のグループがやった論文の捏造もこれが動機でしょう。

東京大学分子生物学研究所の加藤元教授の研究グループが行なった「骨ができる仕組み」などの基礎研究論文に、改竄の可能性があると指摘があったのは昨年1月。その後、東大の調査委員が過去の論文を調べ、今年6月に43の論文について改竄やねつ造の疑いがあるお判明したというもの。加藤氏とは面識があります。今回の問題で引責辞任後は、福島で放射線や教育に関する支援活動を行なっています。問題を反省し、社会に積極的に真相を語っている稀な存在です。

加藤氏の告白で、多くのことがわかってきました。基礎研究の場合、動物実験などは簡単に追試できます。本来、基礎研究の捏造は簡単に見抜けます。ところが今回は、データを少しだけ”化粧”して、60点のところを70点にしようとしただけでした。具体的には、同一画像を使いまわししたり、反転させたりといったセコいことばかりです。ただ、このような改竄はばれにくい。論文は一流紙に受理され、実際に手を汚した研究者は他大学の教授に栄転しています。知能犯です。

この件が未曽有と事件とされるのは、医学研究のトップとされてきた東京大学の有名な研究室が発表した論文で大規模なねつ造が露見したことです。しかも、加藤教授は辞任しましたが、実際に関与した連中は沈黙を守っています。米国在住の研究者は「もう日本の医学研究は信頼されなくなった」といいます。東大ではもう一つ、この7月、東京地検特捜部に詐欺容疑で逮捕された秋山教授の事件も見逃せません。

それは、東京大学政策ビジョン研究センターで医療のビッグデータ解析などを行なっていた秋山教授は、2010年9月〜11年9月の間、システム販売会社など6社の役員らと共謀し、自身が関わる研究事業のデータベースの作成業務をカラ発注し、国の研究費約1890万円をだまし取ったというもの。この事件は東大の不祥事ですが、厚労相の存在抜きには語れません。実際、秋山氏の前職は、国立国際医療センターという厚労省の組織です。実は、こういう馴れ合いは、役所直下の組織でないとできません。

特に厚労省が問題です。技官が支配しており、チェックもおざなりだからです。彼の場合、以前からやっていたことを東大に移ってもやっていたらバレてしまったのでしょう。経緯はどうあれ、東大に不審の目が注がれていることを私たちは自覚しなければなりません。

国の研究費で家電購入

今、国は臨床研究の「中核病院」や「拠点病院」と言うのを打ち出し、東大や国立ガン研究センターなどを重要拠点化しようとしているので、こうした拠点病院の研究者たちには、何もしなくてもカネが降ってきます。努力せずに金が来るのですから、不心得者も出てきます

私が以前勤めていた、国立ガン研究センターの牧本医師の事件がその典型です。これは、今年2月26日、国立ガン研究センター中央病院の小児腫瘍科長、牧本医師が国の研究費約2570万円を不正にプールし、一部を私的流用したとして懲戒解雇された。牧本氏は2007〜2008年度、厚労省から計約2億2000万円の研究費を受け取っていたが、業者に架空発注して代金を過大に払い、その分を不正にプールする「預け」の手法で裏金を作り、少なくとも578万円を私物のエアコンやテレビなどの62点の代金に充てていたというもの。以前からこうした流用のスキームについては、さまざまな噂を聞いていましたが、代々行なわれていた裏金作りのスキームが、今になってバレ始めただけです。

研究費をプールしていたのは、コンピューター関連会社で、ここが「預け」の代理店業務をしていた。医師はここに業務を発注した形でいったんお金を入れて、虚偽伝票でつじつまを合わせる。そして、この会社からプール金を使って自宅や家族に家電製品などを届けさせていた。いわばマネーロンダリングです。この事件について、厚労相と国立ガン研究センターは、牧本医師を懲戒解雇しただけで、第三者委員会もつくらず、刑事告発・行政処分もしていません。都内で普通に医者をしているといいます。公金横領に対し、常識では考えられない対応です。「身内に甘い」といわれても仕方ありません。

バルタルサン事件とこれらの事件が違うところは、予算の点です。バルタルサン事件に加担した教授たちは予算がなく、製薬会社の言いなりにならざるをえなくなった。その一方、東大や国立ガン研究センターは予算があるから、まともに研究しない医師は余ったカネを不正に使う。予算配分や価格統制権を一部の官僚たちが握ってしまっていることの弊害です。

米国では、オバマ政権が税金を使った医学研究によって発表した論文は速やかに公開するよう呼びかけ、有能なブロガーらは公開された論文をチェックして不正を追及しています。一方日本では、いまだに大学側が問題を隠ぺいしようとする悪習がなくなりません。一連の不正で、自分で真相を語ったのは加藤氏だけです。

いまこそ、医療業界の膿をすべて出すべきです。すべての問題を徹底調査し、もう一度医療への信頼を取り戻さなければなりません。原子力村の経年劣化が、福島第一原発事故という悲劇を招いたといわれます。次々と発覚する医療問題は、官僚、大学、製薬会社がつくりだす「白い巨塔ムラ」が崩壊を迎えつつある予兆なのかもしれません。



『週刊ポスト』8.30


加藤  |MAIL