加藤のメモ的日記
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2013年08月04日(日) 父・金正日と私 ��

リビアの衝撃

一方、正恩氏は正男氏を海外に放逐して父親から着々と権力を継承し、盤石の後継プロセスが進むと見られていた。だがここにきて、思いがけないことが起きた。チュニジアのジャスミン革命に端を発した中東の民主化要求デモだ。この地域で最も安定しているとみられたエジプトでもデモがわき起こり、約30年間独裁をつづけていたムバラク大統領が退陣に追い込まれた。不動の独裁政権と思われたカダフィ大佐のリビアでも、反政府のうねりが押し寄せて内戦が勃発し、カダフィ大佐は殺害された。

北朝鮮は中東での騒乱について一切報道せず、政府としても無視を決め込んでいた。しかしジャスミン革命の動きが隣の中国にも影響を与え、リビアで反体制派を結集させたことから、内部ではかなりの危機感を募らせていたようだ。北朝鮮の外務省報道官は、リビアに米英仏の多国籍軍が攻撃を加えた直後の2011年3月22日、初めて声明を出した。その内容が北朝鮮の本質を伝えている。

〈現在リビアの事態は国際社会に深刻な教訓を与えている。かって米国が好んで使っていた『リビア核放棄方式』とはまさしく『安全の保証』と『関係改善』なる甘言によって相手を騙し、武装解除させたうえで軍事的に侵略する方式であることが、世界の面前にさらけ出された。〉なぜ北朝鮮が、リビアの事態について自らの立場を表明せざるをえなくなったのか?

2003年、リビアは核兵器を含む大量破壊兵器の放棄を宣言した。当時リビアは経済制裁により石油輸出を制限されており、国内経済に深刻な打撃を受けていた。このため英国などが水面下で大量破壊兵器の放棄を促し、カダフィ大佐もこれを受け入れた。西側陣営はカダフィ大佐の決断を大歓迎し、パリ、ローマ、ロンドンに相次いで招いた。各国首脳が握手して記念写真をとり、親密な関係を築き、石油も購入した。最終的にリビアの石油利権は、英国の石油会社のBPが手中におさめている。今回の軍事介入の主導権を握ったのはフランスだったが、実はフランスこそ、カダフィ大佐と最も親密な関係を築いてきた国だった。

だがそれから5年もたたずして、カダフィ大佐は最新鋭爆撃機からの空爆や巡航ミサイル「トマホーク」による攻撃にさらされ、首都トリポリを追われた。金正日はカダフィ大佐の末路を見て戦慄したはずだ。北朝鮮も米国から「リビアのように核を放棄すればよいことがある」と散々吹きこまれてきた。クリントン米国務長官も一時、「北朝鮮が国際社会に入れば、利益がある」と「リビア方式」を公式に北朝鮮に勧めたことがある。簡単にいえば、武器を放棄して丸腰になれば、恩恵が受けられるということだ。

北朝鮮外務省の声明はこう述べている。「我々の自衛的国防力は、朝鮮半島での戦争を防ぎ、平和を守る抑止力となっている」「地球上に強権と専横が存在する限り、自らの力があってはじめて平和を守ることができるという歴史の真理が証明された」身勝手な言い分ではあるが、国際政治の冷酷な本質を言い当てている部分もある。独裁体制維持のため、核と軍事力を何よりも優先するという北朝鮮の論理がここに凝縮されている。核放棄、経済の改革・開放というスキームは、即刻独裁体制崩壊につながると考えているのである。それでも正恩時代になれば、経済立て直しのために、経済の改革・開放に乗り出すとの観測もあった。中国国境地帯の都市に外国資本を呼び込み、経済特区として大きく発展させるなどの方法だ。

正男擁立シナリオ

中国は、死去した金総書記に対して最大限の哀悼の意を伝え、正恩体制を支援する姿勢を明確にした。しかし、本音では世襲を行なうべきではないと考えているはずである。世襲は政権の正統性を揺るがし、政権の不安定化を招きかねない。しかし、当面は北朝鮮との摩擦を避け、北朝鮮の安定をはかることが一番だと判断している。一方の北朝鮮は、核と軍事力に頼って国を守る姿勢で、このままでは経済の自立は見込めない。国の安定と貧困という矛盾のスパイラルを解きほぐすきっかけがつかめず、国内が混乱に陥る可能性も捨てきれない。

経済成長最優先、隣国安定が至上命題の中国にとって、隣国で混乱が発生することは非常に都合が悪い。その時「正男氏擁立シナリオ」が現実味を帯びてくる。これは決して荒唐無稽な話ではない。なぜなら彼は、「中国に守られている」ためだ。普段は本人も気がつかないほど遠くから見守っているが、危機が迫れば警備担当者が周辺をがっちりガードするという。中国の次期国家主席習近平の出身母体「太子党」が、彼を支えているとの見方もある。

太子党は中国共産党の高級幹部の子弟など、特権的地位にいる者たちのことで、資金力、政治力があり十分正男氏を保護できる。正男氏は中国政府高官の一部子弟とも親しく付き合っており「太った兄き」という愛称で呼ばれている。「北朝鮮の次のリーダーは正男氏の方がふさわしい」と公言するしていもいるという。中国が隣国の指導者の長男を保護しているのは、単なる親切心や礼儀からではない。正恩体制が破綻した際、思想的に中国に近い彼を平壌に送り込み、次期指導者に仕立て上げる目論見があるのだろう。中国が持つ最後の北朝鮮圧迫カードといえよう。当然、正男氏もそれは自覚しているはずだ。最近、彼は身の安全を慮ってか、海外や平壌に行く機会を大幅に減らしているという。


『父・金正日と私』


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