加藤のメモ的日記
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| 2013年06月17日(月) |
世界を揺るがした10年�� |
ベルリンの壁崩壊から9.11まで
歴史には決定的瞬間というものがある。ある日突然と思えるような瞬間に、世界ががらりと変わってしまう。打ち上げ花火が夜空ではじけて鮮やかな大輪の花を咲かせるように、あらゆるものが劇的に変化する。そういう決定的瞬間が1989年11月9日のベルリンの壁崩壊だった。この瞬間を起点に、歴史は予想を超えた方向へ展開した。政治、経済のみならず、、文化、教育、科学、宗教に至るまでさまざまな領域で、アッと驚くような出来事が相次いだ。
東西ドイツが統一し、湾岸戦争が勃発し、ソ連が瓦解した。マイクロソフトの怪物ソフトがパソコン市場を制覇し、独ダイムラー・ベンツと米クライスラーが合併し、ユーロが誕生した。旧ユーゴスラヴィアでは内戦が続き、世界金融危機が発生し、ITバブルが弾けた。そして2001年9月11日、世界を震撼させた米中枢同時テロが起きる。ベルリンの壁崩壊から米中枢同時テロまでの10年余りの間に、世界は大きく転換した。ベルリンの壁崩壊に伴う冷戦終結により、世界全体のプレートが変動し、20世紀の常識は崩れ去った。世界を揺るがしたこの10年は、文明が変わるマクロ転換の10年だった。
生物学的に見ると、人類はこの10万年というもの、ほとんど変わっていないらしい。しかし20世紀末から21世紀にかけての短い期間に、人間と社会はラディカルに変化した。これほど激しい変化の時代は史上例がない。ドイツの哲学者ヘーゲルは「歴史上、最も幸福なページは白紙である」と言っている。平和な時代は変化に乏しく、記述が少ない。時代が揺れ動き大きな異変や事件があった時ほど、歴史のページは厚い。とすれば、世界を揺るがした世紀末の10年は人類にとって果たして幸福だったのか、それとも不幸だったのか?答えはまだ出ていない。結論は、21世紀の地球社会がこれからどういう方向へ進むかにかかっている。その鍵を握っているのは、グローバル時代を生きる地球市民一人一人の意識と行動である。
20世紀は戦争と革命と技術革新の世紀だった。その壮大な矛盾がスパークして、最後の10年間に一気に噴き出した。1989年11月9日のベルリンの壁崩壊から、2001年9月11日の米中枢同時テロまでの10年余り。この世紀の変わり目に、世界は大きく転換し、人々の生活や意識も変わった。規模とスピードにおいて、史上空前の変革の波だった。政治、経済、社会から思想、文化、技術まで、地球全体のパラダイムが根本から転換したという意味で「文明のマクロ転換」である。視点をロングに引いていくと、その意味がより鮮明になってくる。グローバル化とネットワーク化。その磁場で、世界史に刻まれるようなドラマが数限りなく演じられた。
東西ドイツが統一し、東ヨーロッパ各国で市民革命が起きた。湾岸戦争が勃発し、ソ連が崩壊した。市場経済が地球規模で浸透し、アジア金融危機が世界経済へ波及した。ヨーロッパ単一通貨ユーロが誕生し、独ダイムラー・ベンツと米クライスラーが合併して初の本格的な世界株式会社となった。マイクロソフトのウィンドウズ95がコンピューター業界を制覇し、インターネットを舞台にIT革命が急進展した。旧ユーゴスラヴィアでは内戦がくすぶり、米中枢同時テロが発生した。その余波で2003年3月に対イラク戦争が始まり、世界中でテロが連鎖的に発生するようになった。
拾い上げればきりがないくらいに、この10年間に世界史的な事件が集中している。状況は多様にして複雑だが、一つだけ確かなのは、多くのリスクを秘めながら地球共同体を確立するためのインフラか整いつつあるという事実である。後世の歴史家はこの「世界を揺るがした10年」を「一つの地球」へのビッグバンを生んだ人類の星の時間として記憶するに違いない。ただ、この星の時間が真の光明となるかどうかは、地球市民のこれからの意識と努力次第である。「地球社会は破滅へ向かっている」という悲観論の振幅の大きさが地球の未来を暗示している。個人の人生にも、世界状況にも、常に予測可能な力と予測不可能な力が働く。予測不可能な力にどう対応するかが、先行きを占ううえで決定的な意味を持つ。必要なのは、めまぐるしく変化する世界の全体状況に対する客観認識である。歴史認識とグローバルな視野がなくては、真実は見えてこない。真実とは、いってみれば、空間的な縦軸と時間的な横軸からとらえたトータルな姿である。
ナチスの総統アドルフ・ヒトラーを生みだした20世紀前半の政治・経済情勢と、この人物が決定づけた20世紀後半の政治・経済情勢。20世紀という時代は、他の誰よりもヒトラーが最もシンボリックに体現している。そこに、この世紀の特異性がある。ヒトラーはなぜ人々の心をとらえ、世界支配という狂気へ走ったのだろうか?
第一次大戦で敗戦したドイツの経済は、悪化の一途をたどり、政治も混乱した。破局的なインフレが起きて、パンやシャツを買うのにリヤカーで札束を運ぶような状況となった。1929年に米ウォール街の株が暴落し、世界恐慌が発生し、ドイツ経済を一段と圧迫した。失業者は1930〜32年に600万人近くに達し、民心は荒廃した。
そんな時代の裂け目に登場したのがヒトラーである。資本からの強い支持を受けたヒトラーは国民の不満を巧みに利用し、ドイツの誇りをズタズタにしたヴェルサイユ体制の打破と反ユダヤ主義を掲げて党勢を拡大した。1933年1月30日、ついに首相の座につくと、国会放火事件をでっち上げ、政敵を弾圧した。一党独裁体制を確立し、ユダヤ人抹殺に乗り出した。「世界的な事件はすべて人種の自己保存運動の表現にすぎない」(『わが闘争』)というヒトラーは、ユダヤ人を「他民族に寄生する全民族の敵」と見なした。ナチズムのイデオロギーは反ユダヤ主義、ドイツ至上主義、反マルクス主義、そして闘争信仰である。
イタリアではベニード・ムッソリーニが「戦闘的ファッショ」を組織し、クーデターによって独裁体制を築いた。スペインではフランシスコ・フランコ将軍が反乱を起こし、ヒトラーとムソリーニの支援を得て1939年に軍事政権を樹立した。ヨーロッパ最強となったドイツはこの年、第一次世界大戦の復習戦ともいうべき侵略を開始した。まずオーストラリアやチェコスロバキアを併合し、第二次世界大戦の火ぶたを切って落とした。1940年4月、デンマークとノルウェーを占領。5月にはオランダ、ベルギー、ルクセンブルグに侵攻した。さらに6月にはフランスを押さえ、ヨーロッパをほぼ手中に置いた。占領されなかったのはドイツと友好関係にあったスペイン、ポルトガルを除くと、英国、それに中立国のスウェーデンとスイスだった。
ナポレオンのヨーロッパ征服と同じように、ヒトラーはドイツ民族が支配するヨーロッパを創ろうとした。血みどろの戦いの末に金髪の北方ゲルマン民族であるアーリア人が世界を支配するという大ゲルマン帝国の青写真。ユダヤ人問題の「最終戦争」としてのせん滅作戦…。それはヨーロッパを一つにしようとする歴史上のあらゆる試みの中で、最も無謀なものだった。没落への恐怖心が「ヒトラー」という狂気を生みだしたのである。戦争とはむごいものである。ごく普通の常識を持った普通の人間が、極限状況の中で非人間的な狂気に代わる。とりわけ軍隊や憲兵の人権蹂躙には目を覆うものがあった。人々を虫けらのように扱った。
軍服を着ると、人間というものは軍歌を歌うようになる(『人間の土地』)
というフランスの作家アントワーヌ・サン=テグジェリベリの言葉は、人間と戦争の本質を突いている。軍服を着ると人間は状況次第で残酷になるものらしい。ドイツでは、好ましくない書物はすべて焼かれ、火葬場はいつも不気味な煙を吐いていた。2003年のイラク戦争でも、米軍はイラク人捕虜を虐待し、世界中の非難を浴びた。英国の喜劇王チャールズ・チャプリンが映画『独裁者』を作ったのは1940年。文字通り命がけの制作だった。独裁者ヒンケルに扮したチャプリンは最後の場面で演説する。
「私は独裁者になりたくはない。支配したくはない。できれば援助したい。ユダヤ人も、黒人も、白人も、人類はお互いに助け合うべきである。世界には全人類を養う富がある。人生は自由で楽しいはずである。貪欲は人類を毒し、憎悪をもたらし、悲劇と流血を招く。思想だけがあって感情がないと、人間性が失われる。知識よりも思いやりこそが必要である。思いやりがないと、暴力だけが残る。兵士諸君、犠牲になるな。人生はもっと美しく、もっと素晴らしいものだ」
ヒトラーに向かって、全人類に向かって、この言葉を伝えるために、チャプリンは無声映画へのこだわりを捨ててトーキーの世界に踏み込んだ。独裁者の狂気とナルシズムを鋭く暴いた反ナチス映画の金字塔である。第二次世界大戦は、ファシズム連合と反ファシズム連合が生き残りをかけて戦った、文字通り人類の総力戦だった。ヒトラーの野望は、米国、英国、フランス、ソ連などの連合国軍の猛反抗で挫折する。
1945年4月30日、ヒトラーはベルリンの総統官邸の地下壕に追い詰められ、愛人エヴァ・ブラウンと共に自殺し、戦慄の歴史にピリオドを打った。死の直前、ヒトラーは放心状態となり、ほとんど口を聞かなかったと伝えられている。3日前にムソリーニはパルチザンに射殺され、ミラノの広場に逆さ吊りされて踏んだり蹴ったりされた。その二の舞にならないよう、自殺を選んだともいう。ヒトラーが残した雑多な書類の中には、故郷リンツに宛てた自画像と、ドイツ国民への最終命令があった。「どんなことがあろうと人種法を厳守し、万国の害毒である国際ユダヤを根絶やしにすること」
文豪トーマス・マンの息子で歴史家のゴーロ・マンが言うように、追い詰められたヒトラーは自らの火葬の炎とともに、世界を道連れにして破滅させようとしていたのかもしれない。ヒトラーの死とともに、人類史上最も悲惨な戦争は終わった。
『世界を揺るがした10年』山本 武信
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