加藤のメモ的日記
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2013年03月07日(木) 大島渚 脳卒中の食事

「脳卒中の予防の第一は、まず太り過ぎないことです。脳の血管が切れるのが脳出血。かっては脳梗塞ともいいました。血管がふさがるのが、脳梗塞。これらの脳の疾患を総称して、脳卒中と呼びます。体重の次に注意すべきことは、運動と、腹八分目。そして減塩、野菜中心、一日30品目の食材摂取を心掛けてください」湘南わかば苑の山川栄養士は手厳しい。「ここは高齢者向けで、1日3食、1600キロカロリー、塩分8〜9グラムに抑えています。若い方のカロリー総量とは違いますが、それでも20代、30代からのカロリーの過剰摂取は万病に値します。ある日、突然〈一撃〉がきます」

脳出血で倒れて17年。車椅子生活、80歳で逝った大島渚監督。「しかし残念ながら、脳出血、脳梗塞を発症すると、口の中に麻痺が残る。喉の機能が落ちるなど、多くの人が飲み込みに大変な苦労をします。大島さんには普通ののご飯とおじやの中間ほどの柔らかさのものをお出ししました」この施設では、一番柔らかいゼリー状から、ミキサー、刻み食、ひと口大、全形と呼ぶ通常の硬さまで5段階に調節する。ほぼ100人の入所者と20人の通所者を、70人のスタッフで対応する。

大島監督を介護してきた妻・小山明子さん(78)は、「大島は、来客があれば朝でもビール、お昼のワイン、夜の日本酒、ウィスキー」と飲み続けた。「お酒と私と、どっちが大事なの!」ときつく問うたりしたが結局、「大島は、体の右側が麻痺し、失語症になり」夫妻は、倒れた夫、壊れていく私、の過酷な状況に陥った。「それまでは人間ドッグではいつも血糖値が高く、ちょっと糖尿の気があるから気をつけてください」といわれていた程度だった。そこで糖尿に効くと聞いた煎じ薬を毎日飲んだ。

しかしやったことはそれだけ。あとは「お酒をガバガバ飲み、高カロリーの料理を好んで食べ、運動もせず、ハードな仕事に追われ」ある日、一撃は突然にやってきた。「血糖値は、倒れたときには250近かった。もう立派な糖尿病患者だった」作家の野坂昭如さん(82)も、72歳で脳梗塞に仆れた。「野坂は取り憑かれたように、食べることもなくお酒を飲んで睡眠不足。ハチャメチャな状態でした」「いつかはドブにはまって死んでしまう」と、小山さんとの対談で夫人は明かしている。(『笑顔の介護力』)

野坂夫人に小山さんが返す。「うちも大酒飲み。出会った頃は60キロぐらいで細いから好きになったのに」大島さんは一時は100キロ近くに太った。医者に糖尿病を注意され、「1日2食。米、パンなどの炭水化物は厳禁。お酒も禁止でした」という食生活だった。

1500キロカロリー 塩分7グラムが理想

脳出血の要因の大部分は、高血圧。血圧の高い状態が続くと、細い血管は常に張りつめた状態になり、柔軟性が失われ、硬化が進む。この硬くなった血管にいっぺんに大量の血液が流れ込んで、血管が破れるのが脳出血である。予防の第一歩は、何よりも生活習慣を見直すこと。それは太り過ぎを注意する。睡眠と休養でストレスを解消する。大島さんや野坂さんのような過度の飲酒と、喫煙は命を縮める。

動物性脂肪、コレステロールを多く含む肉などの食品を控えめにし、アジ、サバ、イワシなどの青魚に含まれる不飽和脂肪酸を積極的に摂る。血圧を下げる効用のある乳製品、マグネシウムの多い焼き海苔、昆布、ゴマなども有用である。しかし毎年、25万人以上が脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの〈脳卒中〉を発症している。現在の患者数は150万人。がん、心疾患に続いて日本人の死因の第3位の数で、年間13万人が死亡する。

では、〈strike=一撃〉はどんな表情を見せて、ある日突然現れるのか。頭が痛い。めまいがする。体にしびれがある。熱いお湯が冷たい。ぬるいお湯が、熱くて痛い。ろれつがまわらない。視野が狭まったようで、片方の目が見えにくい。手足がスムーズに動かない。片腕、片足から力が抜けてふらぶらする。元・NHKアナウンサーの山川静雄さんも脳梗塞を発症した。

山川さんはそれまで「大病らしきものは一つもなく、多忙、過食、深酒、午前様というパターン」退職して、急激に運動量が減った、体重が増加し、「糖尿病の一歩手前だ」と医師に言われた。しかも、時折、不整脈があった。そして67歳の正月明け、クリスマスから新年会とアルコールが途切れず、一家団欒の寄せ鍋の夕食がすんで、ごろりと横になってテレビを見ようとしたところ、腕枕の腕がヘナヘナとなって力が入らない。まともに言葉が出てこない。ロレツがまわらない。以後、山川さんは懸命のリハビリに努めて幸いにも復帰した。

脳出血の最大の要因は、高血圧、高脂血症、糖尿病。これにかからない予防は、塩、脂、糖をなるべく減らす。完食、間食、ドカ食い、飲み過ぎは禁止。もう一つ、脳梗塞の要因は高血圧、喫煙が引き起こす動脈硬化である。予防はこれも、高カロリー、高コレステロール、高脂肪の食生活をやめること。理想は1500�船�ロリー、塩分7グラム。血管の壁を強化するために卵、大豆製品、鶏肉、魚を食べる。血中コレステロールを上げる動物性脂肪は控える。リンゴ、バナナ、枝豆、カボチャなど、塩分の排出を促すカリウムを多く含む食品を積極的に摂る。

具体的に良い食材とは。青魚、イカ、タコ、カニなどのタウリン。ニンニク、ショウガ、玉ねぎ、キノコ、こんにゃく、海藻の繊維、グリーンアスパラガスのルチン、植物性のオリーブオイル。いずれにしろ、高血圧にならないことが脳卒中を防ぐ第一の予防となる。食塩を摂り過ぎるとナトリウムの作用で血液量が増え、血管内圧が上昇し、末梢神経の抵抗が高まる。やがて血圧も上昇して高血圧となる。薄味がキーワードとなる。

大島監督は再発したが、1日1200�船�ロリーを超えることがないよう、食品交換表を参照しながら、明子夫人も心を砕いた。たまに夫は甘いものを欲しがる。根負けして小さなケーキを出す、「それは毒を食べさせているのと同じことです」毒の代わりの究極の食材は、玉ねぎだった。365日、玉ねぎ入り味噌汁。言語障害を起こし、辛いリハビリに励み、毎日タマネギを食べる。脳卒中の克服は尋常一様ではない苦労を強いられる。

神奈川県藤沢市、この川縁の散歩道を、大島監督は明子夫人に車椅子を押されて散歩した。桜やツツジの季節、花見客で賑わうというが、同じ道を辿ってみた2月の半ば、海からの風が強い。穏やかな散歩光景に見えるが〈strike=一撃〉は夫人にも襲いかかった。夫の介護で鬱を発症し、精神科に強制入院させられ、治癒に4年を要した。その後も入退院を繰り返した。津波のように何もかも奪う脳卒中と、夫妻の過酷な戦いだった。夫の葬儀、明子夫人は嗚咽をこらえながら、弔問客に深々と辞儀した。



『週刊ポスト』2.15


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