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2005年07月31日(日)
「吉野ヶ里」佐古和枝 早川和子

「吉野ヶ里」草思社91年刊 佐古和枝 早川和子
漢字にルビを振っているので、小学生・中学生の学習用として企画したのかもしれないが、内容的には1991年までに分かっていた考古学的知識が総動員されている。学術的にも最先端のことが書かれてあると思った。

しかしこの本の特徴はそれだけではない。学術的用語は極力使わず、会話体を多くし、隣の中国の動きを常に視野にいれながら、まるで吉野ヶ里という『弥生都市』を舞台にした大河小説のダイジェストみたいな体裁を持っている。読んでいてイメージが次々と沸く。

そのためにはいくつかの『冒険』もしている。一般に考古学者というのは、こういう解説書では定説しか書かなかったり、定説になっていないところはさまざまな説を紹介した上で自説を展開して『難解な文章』になりがちである。佐古氏は一番意見が分かれる邪馬台国の場所やら吉野ヶ里の国の名前などは、「筑後平野の一角に邪馬台国」「吉野ヶ里は弥奴国の中心地」だと決めて話を進めてしまっている。いろいろと反論のあるところかもしれないが、わたしは『分かりやすくて』とても良いと思う。今大切なのは弥生時代とはどういう時代だったのかイメージを広げることだ。ここにはちょっと前の教科書(今もか)では思いもつかない、ダイナミックで豊かな日本の黎明期が姿を現す。興味を持った人はさらに難しい学問の世界にはいればよいだろう。

イメージ創りに大きな役割を果たしているのは早川和子氏のイラストである。早川氏は弥生時代のイラストを描いたらおそらく日本で第一人者であろう。優しい線に似あわず、考古学的知識は第一級で、この人のイラストなら文章の中にはでてこない人々の髪型、服装などはもちろん、子供や老人の表情まで信頼できる。またイラストには、吉野ヶ里の俯瞰図や、アジア地図も在り、手書きイラストならではの分かりやすさがある。
(05.05.26記入)