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2005年07月24日(日)
『田中芳樹初期短編集 緑の草原に…』

『田中芳樹初期短編集 緑の草原に…』東京書籍
田中芳樹のSFがなぜ面白いのかというと、その作品至るところに、読書好きの輩を喜ばす『オマージュ』が散りばめられているからに他ならない。特に中国戦国時代のいろんな教訓、ローマ時代の栄華盛衰、等、歴史のある時代への知識は際立っている。
初期の時代には、それプラスさまざまな科学雑誌知識とともに、過去の名作SFへの『オマージュ』もはいっている。

この作品集では、『流星航路』『銀環計画』が秀逸。

『流星航路』に引用される『かの常闇の宇宙より他なし…』で始まる詩は、著者自身の創作ではあると分かってはいるが、『15,6年前、私が思春期の少年だった頃から流布し始めた詠み人知らずの詩である。技巧的には稚拙だし、文学的価値にいたっては話のほかだが、(宇宙活動家を目指す)若い世代に感情に訴えるところがあって…』というような文章を読むと、いったん話を創ったあとにそれをまた歴史のヒトコマに組み入れる作者の、楽しんで話を創っている様が見えて私も楽しくなる。

『銀環計画』に見える、辛らつな近未来の世界批判は、まるで『創竜伝』の先取り。未来に対する鋭い批判とともに、どこかに『希望』を隠したストーリー運びに、私たちは、少しほっとするのだ。バラ色の未来は信用できない、でも、あまりにも希望の無い未来も信用できないのである。
(05.05.10記入)