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2005年02月02日(水)
04年映画ベスト23(その二)長文

ベスト12「モーターサイクルダイアリーズ」ウォルター・サレス監督 ガエル・ガエシラ・ベルナル主演。23歳のチェ・ゲバラは友人と共に、アルゼンチンの自宅から半年以上かけ、南米大陸を横断する旅に出る。見事なロード・ムービー。青年ゲバラはしだいに社会の不公平に目を向ける。それは旅に出た事のあるものには全員思い当たる、必然であろう。旅の魅力が一杯。私も旅に出たくなった。彼のように半年も出る事は出来ないが、当てのない旅を何日も。いや、きっと行くぞ、と決心をさせるだけの力を持った作品。

ベスト11「油断大敵」成島出監督 役所広司 柄本明主演。刑事と泥棒は切磋琢磨し、「自分の仕事」を全うする。奇妙な友情も芽生える。「天職」に気が付くのは大切である。なんか救われた気がしました。監督第1回とは思えないほど堂々とした演出。娘の2回に渡る決心に泣いちゃいました。

ベスト10「折り梅」松井久子監督 原田美枝子主演。同じアルツハイマーを扱っているが、前作「ユキエ」では、夫婦愛に焦点を絞って描いていた。どちらかというと二人とも芯の強い人であまり悩んでいなかったが、別離の物語であった。今回の登場人物たちは思い悩み、試行錯誤し、精一杯介護保険を使い、そして最後には「共に生きていく」所で終る。非常に良かった。日本のアルツハイマー介護の到達点(ヘルパー、グループホーム、デイケア)も見えるし、吉行和子と原田美枝子の演技合戦も見応えがある。「アルツハイマーになってもなお、東美展に入賞するような才能が花開く。(事実にもとずいているらしい)」人間とは凄いものだ、と率直に思わせるような映画である。

ベスト9「父と暮らせば」黒木和夫監督宮沢りえ主演。原爆で生き残った女性は、数年経ってもまだいきる力を取り戻せていない。彼女は今、原爆で死んだ父親の幽霊といっしょに暮らしている。8月の中ごろ広島市で鑑賞した。映画館の人も誉めていたが、「宮沢りえのなんともきれいな広島弁が素晴らしい。」私はあらかじめ原作を読んで、ある程度のイメージをもってこの映画に望んだのであるが、へたにCGでご魔化さずに二人の演技力を全面に出した演出。俳優とは素晴らしいと思った。宮沢りえは「生きる力」取り戻す。同時期、DVDで監督の第二作「美しい夏、キリシマ」を観た。監督の半自伝という事もあり、こちらは言いたい事を詰めこみすぎて返って散漫になっている。たった一つの事を描いているこちらの作品のほうが良かった。

ベスト8「チルソクの夏」チルソクとは韓国語で七夕の意。70年代の下関と釜山。高校生の陸上交流大会で芽生えた淡い恋。その中に、朝鮮人差別やら、貧富の差やら、日韓断絶などをさりげなく描く。それを吹き飛ばすような女の子四人組の友情が爽やかだし、彼女たちが本気で走っている姿が心地よい。イルカの「なごり雪」ピンクレディーの「渚のシンドバット」が効果的に使われている。地味な映画だけど、地方で火が付いて全国公開になっただけの力がある作品。

ベスト7「下妻物語」中嶋哲也監督 深田恭子主演。コスプレ映画だと勘違いしてはいけない。しっかり元気になれる映画。しっかり応援できるキャラクター。土屋アンナちゃんも熱演しているのだけど、深田恭子が凄い。あのキャラで全然不自然ではないというのは凄い。脇役も大熱演。青春映画の王道を行くけど、先の見えない展開。楽しい映像。細かいところへの気配り。全然期待せずに観て、傑作に出会えたときの幸せな気持ちはちょっと忘れられない。

ベスト6「ビッグ・フィッシュ」ティム・バートン監督。父親の昔話というのは、ホント半分空想半分が多いのではないか。「お父さん、小学校時代は学級でいちばん頭が良かったんだ。ただ家が貧乏なもんだから上の学校に行けなかった」これはこの映画の話ではなく、私の父親の何度も聞いた話である。最初はお父さんを尊敬する。しかし、中学になって話を聞くのも50回目を超える頃になると、うんざりするのと同時に「本当かな」あるいは「それがどうした」となるのである。子供は多くは反発する。この作品の子供のように、父親とは正反対の「今」と「事実」を大切にする仕事をするようになる。この作品父親のほら話は一言でいって「ファンタジー」だ。うちの父親とはレベルが違う。事実が必ずしも真実ではないのと同じように、ファンタジーはときどき真実を突く事がある。私はもともとファンタジー派である。だから最後の葬式の場面などは言わずもがな、なのであるが、ファンタジーをほら話としてか受けとめれない息子派の人には必要な場面だったろう。

ベスト5「ブラザーフッド」カン・ジェギュ監督チャン・ドンゴン ウォンビン主演。大きな悲劇的な事件を描くとき、その事件の全貌を描くよりも、二人のキャラクターを中心に描いて、事件を背景として描くほうが、よりその事件の悲劇性が浮き上がる事がある。「タイタニック」はまさにそうやって成功した事例であるが、この作品もそれと同じような作品として長く記憶されるかもしれない。「タイタニック」でも二人の別れの場面では全然泣けずに他の場面で大泣きした私であるが、今回も「これでもか」という「泣き」の場面がうっとおしくて、それがマイナスではあるのだが、それを吹き飛ばすほど、同じ民族が戦う肉弾戦の「朝鮮戦争」という悲劇の描写に時の経つのを忘れた。すごい戦争映画が出来あがった。結局数ある韓国映画でこの作品しか良いのが無かった。確かにここ数年で言うと韓国でいい作品は増えている。しかし「韓流」というブームに踊らされてはいけない。「オアシス」「悪い男」は未見。

ベスト4「モンスター」パティ・ジェンキンズ監督・脚本 シャーリーズ・セロン主演。セロンが13キロも体重を増やすという役作りをして、アメリカ初の女性連続殺人事件犯人として死刑になったアイリーン・ウォノースを演じる。この作品には、これでもか、と彼女のささくれだった肌がアップで出てくる。様変わりした顔、ぶよぶよの腹、下卑たセリフとガニ股で歩く姿、セロンのファンの私としては、辛い体験だった。主人公アイリーンは確かに可哀想な部分はあるが、一方殺人に弁解の余地は無い。そして彼女の立ち振る舞いは彼女が嫌っていた自分を買う男たちの態度そのままだ。のぞけり、空威張りして、時々卑屈になる。彼女の環境をそのまま見せることは、80年代のレーガン政権が行ってきた弱いものを顧みない政策のツケを観る事にもなる。やはり彼女のアカデミー女優賞の受賞は本物だった。彼女のファンとして心からおめでとう、と言いたい。

ベスト3「ジョゼと虎と魚たち」犬堂一心監督 妻夫木聡 池脇千鶴主演。恒夫(妻夫木)は下半身不随のジョゼと付きあおうとする。しかし冒頭ナレーションで二人はやがて別れる事が予言される。いったい二人はなぜ別れるのか。身障者問題がテーマではない。恋愛の「核」を描いた物語。恋一般にありがちななんらかの「障害」を併せ持った愛の行方の物語であった。 
恒夫は優しい男ではあるが、こずるい男でもある。ジョゼは幼い所もあるが、将来の事もよく見えて自立心の富んだ芯の強い女の子である。二人が別れた理由。恒夫の独白では「ボクが逃げた」といっていたが、そうではない。恒夫はジョゼに向きあうにはひと皮むける必要があったのに、変わる事が出来なかった。ジョゼが恒夫を振ったのである。最後の脂ののったシャケをジョゼが焼いているシーンが全てを物語っている。原作では「近松人形のように白く小さい顔をした」と表現されるジョゼを池脇千鶴が迫真の演技をしている。彼女のぶっとい大阪弁と背中のか弱そうな演技。池脇はまた一つ大女優への階段を登った。

ベスト2「誰も知らない」是枝裕和監督・脚本・編集 柳楽優弥 北浦愛 木村飛影 清水萌々子 韓英恵 YOU出演。
ゆきちゃんが大好きな「アポロ」の御菓子を大事に食べているのを見て、最初兄弟四人だけで生きてやがて悲劇に至る事を描く現代版「火垂るの墓」なのかなと思ったのだが、「泣かせ」の映像は極力排除している。そんな物語ではなかった。子供から少年へ、子供から少女へ向かうときの貴重な表情たち、「生活」する事の大変さ、都会の無関心さ、そして「寄り添う」ことの美しさ(素晴らしさ)。ゴンチチの音楽がどうしようもなく美しく、優しい。子供たちがいい。彼らの生活が破綻する直前でカメラを止めたのはよかった。現代で人間でありつづける事は厳しいけど、希望はある。子供たちでさえ、一年間は頑張ったのだ。いわんや私たち大人をや。私はそのようにこの作品を受けとめた。
この映画は劇場で2回観た。誰も注目していないけど、足のアップと手のアップが多用されていることに気が付いた。子供たちは靴に気を使う。長男の明は運動靴。長女の京子は女の子らしいスニーカー、次女のゆきはくまさんのアップリケがついたきゅっきゅっと鳴るスリッパ。明のゲーム友達は中学にはいって親に真っ白でまぶしいような運動靴を買ってもらっていた。明のそれはそのときは真っ黒にすすけていた。やがて彼はスリッパしかはかなくなる。
お母さんに塗ってもらったマニキュアが京子にはまぶしい。その色が禿ていっても彼女は色を落とす事が出来ない。事故で死んでいくゆきの体に触る手と手と。「お別れ?」と聞くシゲルに京子は思わずぐっと手を握り返す。
足のアップは生活を証明し、手のアップは想いを現す。どちらも含めて子供たちは頑張った。

ベスト1「ロード・オブ・ザ・リング三部作」ピータージャクソン監督。あくまで三部作全体を通しての評価です。世界を滅ぼすかもしれないが、世界を支配する事もできるかもしれない「謎」の指輪を、人々の多大な犠牲を伴いながらも「捨てに行く」物語。原作はそのために我々と全く違う民族、地図、歴史、言語を設定した。この物語に入りこみ、見事に解放された暁には、「世界を相対的に観る目」を持つ事だろうと思う。詳しい事はすでに04年の三月号の会報に書いた。未公開映像の入ったDVDの特別版を観たなら、新たな感想が書けるのではないかと期待していたのだが、05年の2月に発売が延期された。なぜ一位に推すまで私がこの作品にいれこんだかは三月号会報を読んで欲しい。

ひとつ、このベスト23に付いて言及しておきたい。私がこういう批評文を書くことで願っているのは、あくまで読者の一つ一つの映画に対する観方を広げてほしいという気持ちからであって、私の観方が正しいと思っているからではない。私は映画を分析したいのではない、楽しみたいのだ。でも、楽しんだ、よかったといってそのまま忘れたくないのである。できる事なら皆の意見を聞きたいと思っている。そうする事で私の映画を観る目を高める事ができるだろう。と思っているからだ。私の持論。「意見が分かれるところはその事象のいちばん大切なところである。」映画作品でも政治でも同じだろう。