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2004年07月10日(土)
「本所しぐれ町物語」新潮文庫 藤沢周平

「本所しぐれ町物語」新潮文庫 藤沢周平
藤沢「市井物」の大傑作である。「市井物」の傑作で短編集というとまずは「橋ものがたり」があげられるが、これはまたそれとは一味違う。本所深川、架空の町「しぐれ町」を舞台に、気のいい大家、情報通の書役、夫婦仲が醒めてしまった中堅商人、大人ぶる少女、浮気妻を許してしまう職人、浮気の虫を抑えきれない若旦那、等々。ときには主役に、ときには脇役で出てくる町の人々を描いている。私たちは読んでいる間はしぐれ町の住人になる。そして、「切ない」人生を共に「楽しむ」のである。

たとえば、胸の小さい若奥さんの話「乳房」が私にはとても切ない。おさよは夫に浮気をされてどうしても許す事ができない。飲み屋の主人おろくはそのおさよにこういう。「男なんてものは、土台そんなにりっぱなものじゃないんだよ。あんたが考えるほどにはね。そして今にわかるが…」「女だって、そんなにりっぱなものじゃないのさ。」おさよのくるくる回る感情が切なくて楽しい。(04.04)