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2004年06月28日(月)
「上弦の月を食べる獅子」(下) ハヤカワ文庫 夢枕獏

「上弦の月を食べる獅子」(下) ハヤカワ文庫 夢枕獏
下巻は一気に読まて貰った。舞台は蘇迷楼(スメール)、生物の進化を辿っていった先の人間世界である。さすがに人間世界の話は分かりやすい。大きな問いを畳んでいった先に二つの問いが残る。

双人としての主人公の一人の属性は今や隠す事無き宮沢賢治である。冒頭「銀河鉄道の夜」のサソリの話が出てくる。この物語は修羅の道をたどってきた賢治に決着を付けさせるという一面を持つ。夢枕獏は最後の問いを逃げない事をこの物語を書くときの条件にしたと言っている。なるほど問いには逃げなかった。しかしせっかく「とし子」を登場させたのにあの扱いはどうなのだ。私には「逃げた」ように感じた。

「正しい問いのなかには、すでに答が含まれている」という言葉には私は全面的に「肯」という。しかし、この物語は正しく問うているのだろうか。私には問うていないように思えたのだが、それは私の中に「答」がないからなのだろうか。

こういう物語があってもいいと思う。しかし私にはせっかく賢治に姦淫と殺生を犯さして更には再びとし子に逢わせるという体験をさせたにもかかわらず、いっこうに決着が付いていないように思えた。(04.03.13)