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2004年06月10日(木)
「ワカタケル大王」文春文庫  黒岩重吾

「ワカタケル大王」(上)文春文庫  黒岩重吾
時は西暦460年、朝鮮半島の百済からこの物語は始まる。日本で初めて中央集権国家らしきものをつくった倭王武(雄略天皇)の王子時代の物語なのだが、物語を倭国だけに限定していないところがこの時代の雰囲気をよくとらえていて素晴らしいと思う。一方で百済王の弟が一時期飛鳥地方に住んでいたと描かれる。彼の子飼いの部下ムサの青の描写は生き生きとしている。
古代の人たちは私たちの想像よりずっと国際的であり、行動的であり、知略に優れていた。そういうことが実感できる物語としてこの作品はうってつけ。この時代をいきいきと描く事の出来る人は黒岩重吾氏しかいなかった。つくづく氏の死が惜しまれる。

「ワカタケル大王下」文春文庫 黒岩重吾
五世紀は大和朝廷の基盤が出来た時期である。それまではまだ地方の「国」との連合国だった傾向が強い。首長の強い個性と武力・戦略、そして国際感覚。それらを兼ね備えた大王として「ワカタケル」が登場する。当時の国際情勢、王子同士の覇権争い、そして遠景として描かれる当時の人々の暮らし。五世紀後半の倭国が生き生きと描かれていて、一気に読ませた。
ただ、ワカタケル王子が即位してからの話が尻すぼみなのがなんとも残念である。せっかく百済王の弟を重要人物として登場させているのたがら、弟の帰還、百済の公州への遷都(475)、ワカタケル大王の宋への上表文(476)への件をもっと描いて欲しかった。