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2003年09月20日(土)
『記憶よ、語れ』海老坂武 

『記憶よ、語れ』筑摩書房  海老坂武 
海老坂武は私の気になる評論家の一人である。私の好きな加藤周一を唯一評論しているのがこの人であるし(「戦後思想の模索」)、独身主義を説得力ある本にまとめてあるのもこの人だし(「新シングルライフ」)、サルトルの重要な翻訳者でもあるからだ。
海老坂武の自伝的な本だと聞いて買ったのだが、一読、わたしの期待はずれだった。加藤周一『羊の歌』のように自分史を語りながら時代を語るのではなく、巷にあまたある自伝のように、自分の魂の成長を記録するのでもない。海老坂は自分を語りながら戦前戦後の「風俗」を語る。しかもその語り口は卑しい。途中何度も出てくる一段下げた挿入文がある。そこで海老坂は自分の恋人、生徒、編集者、弟に臆面もなく「私信」を書いている。まさに我々は高い金を払い、海老坂の長い長い手紙を読まされている気分に陥る。失望した。