日々あんだら
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週末、石巻へ行った。 用事を片付け、昼食を摂ってから家を出て、夕方には石巻へ着いた。 近い。
石巻には、15年前に行ったことがある。 正確には、車で通り過ぎた。夏休みの東北一周旅行の途中のこと。 人気の少ない観光スポットを1〜2ヶ所周り、受付の人以外特に話をすることもなく立ち去った。 あの頃はそれを旅だと思っていた。
約束の時間までまだ1時間以上あったので、ホテルに荷物を預け、財布と文庫本とカメラだけ持って外へ出た。 15年前から変わったことはたくさんあるけれど、今の僕にとっての旅とは観光地を巡ることではなく、 普通の町を、特に路地裏を、写真に納めながらブラブラ歩くことである。 そして町の喫茶店(カフェではなく、コーヒーチェーンでもなく、喫茶店)でコーヒーをすすりながらのんびりすることである。 さらに望みを言えば、その土地の人と二言三言でも会話ができると嬉しい。 でも、路地を歩いて通りかかったお店は、閉店まで20分を切っていた。 残念だけど、喫茶店で急いでコーヒーだけ飲み干して立ち去るのはもったいない。 喫茶店で払うお金は、そのコーヒーだけではなく、そこでの時間や空間への対価なのだ。
空を見上げると、あと数十分でいい夕焼けに出会えそうだった。コーヒーは諦めて町を歩くことにする。 東か西か一瞬だけ迷って、東に向かうことにした。 物事をありのままに見るには順光が適しているが、劇的に、美しく見るには逆光が良い。 この町を夕日の逆光で見たいと思った。
石巻は夕日の光が綺麗な町だ。 路地のいたるところに光が差し込んで浮かび上がっている。 あまり高い建物がなくて空が広いせいか、と思っていたんだけど、すぐに気づいた。 町に隙間が多い。 建っている建物は普通なので最初は気づかなかったんだけど、町中のそこかしこに空き地がある。 良く見ると、いろんな電柱や建物の壁の、頭よりずっと高い位置にに水平な線が引かれていて、 「2017.3.11」という日付が刻まれている。
橋を歩いて川の向こう岸に渡る。 振り返ると思った通り、街のシルエットが夕日の中に浮かび上がっている。 日が完全に沈んでも、空の残照と、それに浮かび上がるススキやタンポポが美しい。 きっと、次に訪れるまで、僕の石巻の印象は「夕日の綺麗な町」になるだろうな、と予感しながら 約束に間に合うようにホテルへの道を戻った。
ほんの1時間半程度の散歩でその町のことがわかるわけがない。 でも、少なくとも15年前よりは何倍も石巻のことを見た気がする。 またいつか訪れたい場所が1つ増えたのと、通りがかった古本屋で買った1冊の本がこの1時間半の収穫だった。
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