2020年07月18日(土) |
GO toを待ちながら |
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浦血海松(うらじみる)と江州寅權(えすとらごん)の夫婦は、さびれた温泉街で旅館を経営していた。もともとそんなに儲かってなかったのだが、3月以降は新型コロナウイルス流行による旅行の自粛で毎日宿泊客がゼロという日が続いていた。二人の口癖はいつも「GO toが早く来てくれないかな」「GO toさえ来てくれればなんとかなる」だった。二人は「GO toを待ちながら」永遠とも思える時間を過ごしていたのである。
そんな二人の宿に、二人連れの観光客がやってきた。歩津男(ポツオ)と楽喜(らっき)という名の二人組だった。
「あんたたち、何を待ってるの?」
「GO toさ」
「なんだよ、そのGO toってのは?」
「なんかよくわかんないけど、それさえ来れば救われるんだよ。私たち夫婦も、この街も何もかも」
「へえ、そりゃすごいね。そんなにすごいことが起きるんだ。それでいったいそのGO toって何ものなんだい?」
「なんだかよくわかんないけど、国がやってる仕組みらしいよ」
歩津男は実はヤクザで、不法就労させている外国人労働者の楽喜を別のヤクザに売り渡すために連れてきているのだった。
「この男、馬鹿だけど妙に従順なんですよ。オレの命令はなんでもきき聞きますからね」
「ご主人様、なんでもお申し付けください」
「ほら、いつもこの調子なんですよ」
4人は他愛もない会話をしつつ、その日は過ぎていくのだった。そこに一人の少年がやってきた。名を「ニシムラ」という。彼は実はシンゾー・アベの使い走りの小僧だった。
「GO toさん、今日は来ないってよ。でも明日来るって」
それを聴いて、浦血と江州寅は落胆したが、「明日来る」という部分には反応した。
「じゃあ、とりあえず今夜は寝るか」
そうして一日は終わったのだった。いったい「GO to」とはどんなものなのだろうか。その詳しい仕組みはどうなっていて、どれだけお金がもらえて街に賑わいが取り戻せて、でもそのかわりに仲介人の電津さんや竹那珂さんにどれだけ手間賃をとられるのか、そういうことは一切知らされてなかった。ただこうして一日中「GO toを待ちながら」過ごしているのだった。そうした繰り返しの一日は、もう何か月も続いているのだった。
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