江草 乗の言いたい放題
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2009年09月25日(金) かつて家にはお母さんがいた・・・        ブログランキング投票ボタンです。いつも投票ありがとうございます。m(_ _)m 携帯用URL by Google Fan



 まだ自分が小学生だった頃、友人の家に遊びに行くと、その家というのはたいていが長屋や文化住宅だった。一戸建ての持ち家に住んでるのはごく少数で、たいていは長屋や団地住まいだった。ただどの家でも必ずお母さんがいて、おやつを出してくれたりした。自分の母親は働いていたので、ちゃんとお母さんが家にいる普通の家にあこがれたものだった。いつからお母さんは家にいなくなったのだろう。

 安価で良質の賃貸住宅を供給するという方針を捨てた我が国の住宅政策は、高額の持ち家を35年ローンで買わせることで銀行を潤わせて、それと同時に労働者を借金の奴隷にした。ローンを払うためにお母さんはパートに出た。それはダイエーなどのスーパーの進出とほぼ重なっていた。そしてダイエーやジャスコの進出は従来の個人商店を廃業に追い込んだ。このようにして2種類の破壊は進行していったのだ。

 サラリーマンと専業主婦といった家庭モデルの破壊と、豆腐屋や八百屋、魚屋という個人商店の衰退はほぼ同時に起きたのである。大手スーパーの進出と安価なパート労働力、そして住宅ローン、これらは相互に密接に関係していたのだ。

 持ち家率は向上した。勤労者が誰でも高額な住宅ローンを抱えてることは当然となり、子どもたちはみんな自分の部屋を手に入れた。子どもたちが自分の部屋に引きこもり、父は残業して長時間労働し、母はパートで働くという強固なシステムが完成したのである。配偶者控除、扶養控除という巧妙な仕組みはパート労働者の賃金を低水準に抑えるのに役立った。そのおかげで大手スーパーは人件費を節約できたのだ。

 住宅ローンと共にのしかかるのは教育費の負担だった。子どもを私立中学、高校に入れるのにかかる費用、大学進学にかかる費用を考えれば子どもの数は少なくせざるを得なかった。少数の子どもに資金を集中的に投下して教育効果を上げるということが求められたのだ。いつのまにか国立大学の授業料も50万をこえてしまい、子どもを大学に通わせるということはかなり負担の重いことになってしまった。平均年収程度の通常のサラリーマン世帯で、もしも子どもが一人私立大学に通うならかなり切りつめた家計になってしまうだろう。二人通うなら親たちはほとんど飲まず食わずで倹約しないといけなくなるだろう。私立大学が貧乏人にとっては搾取のシステムになってるのである。だったら大学になど行かなかったらいいと言われそうだが、中卒、高卒で就職できる企業が減少し、製造業の単純労働者は中国人留学生や日系ブラジル人に置き換えられ、満足な就職口がないためにやむなく多くの若者は大学や専修学校に進学していく。

 では、彼らが大学を出たときに満足な就職ができるのか?答えは否だ。多くのFランク大学はもはや教育機関と言うよりはニート養成所のような状態になってるのである。学力の低い若者を一カ所に4年間集めて遊ばせることでさらに彼らの能力をダメにしてしまっているのだ。もちろんまともな企業の採用担当者はそんなことは百も承知で、少しでも能力のある(=学力偏差値の高い)学生を囲い込もうとするのである。

 かつて家にはお母さんがいた。そのお母さんをパート労働力として子どもたちから奪ったことがすべてのはじまりである。もしもパートにも正社員並みの給与を支払わなければならないとすれば、大手スーパーは中卒や高卒の若者を正社員として採用するしかなかったのだ。政府の間違った住宅政策がなかったら、お母さんたちは働きに出なくてもよかったのである。

 かつて家にはお母さんがいた。サラリーマン+専業主婦という組み合わせの家庭を前提に3号被保険者の制度が作られた。それは結婚した夫婦の半分近くが離婚してしまうという状況下で破綻してしまった。最初から年金を個人単位で掛けるという仕組みにしていればそういう混乱は起きなかっただろう。もしも安価で良質の賃貸住宅が大都市に豊富に提供されていれば、マッチ箱のような持ち家なんか建てる必要はなかったし、街並みもこんなに醜くなることはなかったのだ。なんでこんな安普請の建て売り住宅ばかりなんだ。なんでそんなくだらないものに3000万円払い、住宅ローンの奴隷にされてしまうのだ。30年経てば建て直さないといけないような粗悪な住宅は阪神大震災で多くの居住者の命を奪ったのだ。

 本来賃貸で供給されるべき集合住宅(マンション)を、分譲という形で供給したことで大きな弊害が生まれた。そもそも30年経てば無価値になるものをどうして「分譲」したのか。そんなものを高額で販売するのはオレには詐欺としか思えない。空中の権利を売って儲ける人間と、それにゼニを払う人間がいるのである。

 こんな政策を進めればこんなひどいことになる・・・それを見据えた展望は日本には存在しなかったのだ。少子化も、若者の貧困も、すべてのきっかけはお母さんを家庭から奪ったことに出発している。今から40年前にはどこの家にもお母さんがいた。お母さんを子どもたちから奪ったことはいったい日本に何をもたらしたのか。我々は悲しくそれを受け止めるしかないのか。日本はこれからどんなふうになってしまうのか。もう子どもたちのところにお母さんは戻ってこないのか。



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