2007年09月15日(土) |
ハメこまれた人たち14(クレディア) |
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サラ金といえば儲かってる業界の代表だった時代があった。チワワのCMで「サラ金」の悪いイメージは払拭され、お気軽に利用する人が増えた。銀行から低利で融資を受けた資金を年利率28%という高利で貸し出しして儲からないはずがない。大手サラ金は稼ぎに稼ぎまくっていたのである。ところが利息制限法のグレーゾーン金利の廃止により消費者金融各社はどこも厳しい状況に立たされた。金利が18%以下にされてしまうと武富士やプロミス、アコム、レイクといった大手でさえもかなりの打撃を受ける。ましてやシンキ、クレディアなどといった業界下位の資金力の弱いところは一気に苦しくなったのである。それは株価にもたちまち反映された。
クレディア(8567)は関東・東海が地盤の中堅金融業で電話・インターネットによる振り込みローンで全国展開していた。会社四季報2007年第4集にはこのように記される。
貸金業法改正を受けて与信厳格化。貸付金残高は前期比20%超の減少。貸倒関連費用、利息返還関連引き当ては軽減。希望退職による人件費軽減効果は10億円超。一般経費も削減進めて営業益黒字化。
ここにはちゃんと「営業益黒字化」とある。しかし、この四季報第四集が発売されたその日、クレディアは民事再生法を申請したのである。東証は即日クレディアの10月14日上場廃止と、それまでの整理ポスト入りを決めた。
2005年12月26日、クレディアの株価は2258円だった。そこからはずっと下げていくのだが、2006年10月には794円から1282円へ20日間のうちに上昇するという相場が起きている。以後はまたジリ下げモードに突入し、2007年3月30日には606円、5月31日には430円、8月1日には258円まで下げた。そこから326円まで一旦上昇したがその機を逃さず大量保有していたグローブフレックスが10%近い保有株を売り抜けしてきたため下降し、8月末の株価は250円付近で膠着していた。ただその頃、この株は異常に空売り残が貯まっていたのである。その時点で空売りしていた人々の行動は正しい。その一ヶ月後に倒産したことを思えばその一ヶ月前に空売りをはじめるなんてすごい慧眼の持ち主かと思うのだ。しかし、空売りが増えてもそこから株価は下がらなかった。誰かがその付近で買い支えていたのかも知れない。株不足が拡大して貸株調達が困難になり、空売りしている人たちが支払う品貸料が上がり始めた。8月30日、クレディアの品貸し料(逆日歩)は1.5円となったのである。これは破格の金額である。
逆日歩を払うのはクレディア株が下がると見て空売りを仕掛けている「売り方」だが、もしも買い方に回ればその逆日歩をもらうことになる。信用取引でこの株を250円で買えば、一日で1株あたり1円50銭もらえるわけで、長期保有すればかなりの金額になるし、逆日歩を払いたくない売り方があわてて返済買いすれば一気に値上がりするわけで株価上昇の条件はばっちりだった。オレもそれを期待して買った一人である。まだその時点ではクレディアが倒産するなんて夢にも思わなかったのだ。配当利回りもいいし。つぶれることなんかないからここまで値下がりしたら有望株だと思っていたくらいである。一日1円50銭の逆日歩なら一週間で約10円である。信用取引で買えば250円の株が260円になるのと同じことだ。そう思って徐々に買う人が増え、また空売りする人も増えた。逆日歩は8月31日持ち越し分は1円50銭だったが9月3日持ち越し分は3円に跳ね上がった。9月4日持ち越し分は週末を含むから三日分の逆日歩9円となった。数日間信用買いした分を持ち越せば逆日歩だけで15円ほど稼げた計算になる。それを払わされる売り方はたまらない。しかし、その空売りは返済されるわけでもなくむしろ増え続けたのである。
クレディアは逆日歩が3円に跳ね上がった9月4日にいきなり285(+33)と上昇を開始した。逆日歩9円をつけた9月5日には335(+50)と上昇して東証一部の値上がり率1位となった。出来高も1600万株に膨らんだ。ふだんのこの株が取引される量の20倍以上である。この日、東証は新規空売りの禁止という規制を行ったのである。その日、逆日歩9円を目当てに大量の信用買いが発生していた。新規の空売りも多かったが、買いで入った人が多すぎた。信用取り組みは大きく悪化した。
規制翌日、株価は350円で寄りついた。空売りして居た人たちの中にはそこからさらに踏み上げられることを怖れて慌てて返済する人たちが続出し、株価は357円まで上昇したが、そこからは大量の売りに押されてジリジリと値を下げた。304円まで下げた後リバウンドが狙われてやや上昇したところでなんと外資によるクレディア株の大量保有が発表されたのである。株価は334円(−1)で引けた。今回の相場の仕掛け人はその外資、ブラックロック・ジャパンだと誰もが信じ、そこが売り抜けるためにさらに株価を上昇させるのではないかと多くの人が期待したのである。
しかし、多くの期待を裏切ってクレディアは9月7日、特売り気配から314円(−20)で寄り付き、そこから323円まで上昇する瞬間もあったが、引けに掛けて次々と投げ売りされて結局285円(−49)で引けた。翌日からは281円、268円、262円、250円、247円とジリ下げする一方だった。そして247円をつけた9月14日夕方に民事再生法申請が発表され、東証はクレディア株の上場廃止と整理ポスト入りを発表した。外資による大量保有で一相場が起きると期待してホールドしていた個人株主たちは逃げるチャンスを失ったのである。
しかし、本当に個人投資家は逃げられなかったのか。逃げ切れなかったことは危機管理の甘さゆえではないのかとオレは思うのだ。開示された情報の中には倒産前日の9月13日16:24に発表された大量保有報告書がある。石尾頼央などの保有株が減少して6196820株になり、保有比率が26.70%(前は27.05%)に低下したとある。この石尾頼央というオッサンは他でもないクレディア社長である。少なくともこの開示された情報は多くの投資家に明らかになっているのである。社長自らが持ち株を貸し出したり売ったりする会社にろくなところがないというのはもはや常識である。その情報を知っていたのに売り抜けなかった者、その情報をきちっと確認しなかった者は既に投資の世界の敗者である。
なぜクレディアが大量に空売りされて信用取組が大幅売り長になったのか。業績が良くて株価がどんどん右肩上がりに上昇していくと思えば誰も空売りなんかしない。この会社は危ないと思ったからこそ多くの者が空売りしたのである。その大量に貯まった空売りを利用して最後の踏み上げ相場が仕掛けられただけのことである。仕掛けた本尊はおそらく335円に上昇した日に大量の空売りを入れ、翌日のGU(ギャップアップ、いきなり窓を開けて高値で寄りつくこと)時に買い上がった現物株をぶつけて終了させ、後は空売り分の利益を徐々に確保する算段だったのだろう。
オレは249円で買ったこのクレディア株をもったいないことに310円台で売却してしまったのである。その後に新規空売り禁止になったことを知り、「売り禁なら大相場になるだろう」と期待して寄り付きから買い注文を入れ、350円で買えたのだが結局大きく下げたので翌日に311円で損切りする羽目となった。しかし損切りだけで済んだオレはある意味ついていたのだ。もしも「いつかは上昇する」と信じてホールドしていたらどうなったかと思えばぞっとする。オレはたちまち数百万の損失を抱えてしまっただろう。投資は勝つことよりも負けないことの方がはるかに重要だ。オレは「この動きならもうダメだろう」と判断してクレディア株を損切り売却した自分の選択が正しかったことを思う。
クレディアの場合、四季報のどこにも倒産の懸念のことは書かれていない。言わば突然死に近い。株価250円台の企業がいきなり倒産だなんてありえないとオレは思っていたから今回のことでは大いに驚いているのだ。もしもクレディアを大量に信用買いしているような方がいれば一発で破産するかも知れない。財務の健全性から見れば危ない企業は多い。決算書に監査法人から継続疑義の注記が付けられた企業は、トッキ(9813)、サニックス(4651)、エネサーブ(6519)、など上場会社の中にもいくつもある。基本的にこのような企業の株主でいるということは常に最悪の事態を覚悟しておく必要があるということだ。
オレは投資というのはギャンブルではないと日頃から主張している。よく研究して株価変動の仕組みを理解すれば必ず勝てるというのがオレのポリシーだ。しかし、このクレディア倒産劇に至っては全く予想もしなかった。ほどよく下がったので買おうかと思っていたくらいだ。オレは今回巻き込まれることがなかったことを素直に喜びたい。
民事再生法が申請され、上場廃止と整理ポスト入りが決まったということで空売りしていた人たちが必ず儲かるのかというとそうではない。実は逆日歩と呼ばれる品貸し料(空売りしている人が支払う一株あたりの金額)が9/18から10倍適用となっているのだ。逆日歩が10倍適用で一株/日あたり15円もつけば、空売りして得られる利益はみんなふっとんでしまうじゃないか。
買った人が逃げ切れないだけではなく、空売りした人もどんどん膨らむ損失に怯えないといけないという買っても売っても勝てない究極の株クレディアはある意味真の仕手株だったのかも知れない。逃げ遅れた方の損失が出来るだけ小さくなるようにとオレは祈っているぜ。
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