2004年09月19日(日) |
日本一せこい当たり屋の話 |
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これは事実を元にしたフィクションです。
大阪市内のある裏通りで、その男はじっと獲物を待ちかまえていた。男のシノギは当たられ屋である。当たり屋というのはクルマに軽く身体を接触させておおげさに痛みを訴え、数万円のゼニをせびりとるセコい奴のことをいう。この男のシノギはそれとよく似ていた。違ってるのは、自分からクルマに当たりに行く当たり屋と違って、男はただひたすら当てられるのを待っていたということである。
道路に自転車を駐めるとき、通常は道路の向きに平行、あるいは斜めにして少しでも通過する歩行者やクルマのじゃまにならないようにするものだ。しかし、男は二台の自転車を道路の進行方向に対して垂直に駐めていた。マウンテンバイクとロードレーサーだ。どちらもハンドメイドメーカーのマシンでかなり高価である。男のシノギのためには、その自転車はホームセンターで6980円で売られている自転車ではダメなのである。あくまで「ものすごく高い」と素人に思わせる必要がある。ヤクザが黒塗りのベンツに乗っているのと同じことだ。
その裏通りは、朝夕には近隣のいくつかの学校の通学路となり、大勢の中学生高校生が往来する。ところが大阪の常として、路上駐車しているクルマのために道幅は半分以下になり、学生は通りのど真ん中を歩くしかない。クルマを避けようとして一日に一人か二人、男が駐めてあるその自転車に接触する歩行者がいるのも仕方がない。あるいはうっかりクルマを接触させるドライバーがいる。自転車は派手に音をたてて倒れる。そんなじゃまな駐め方をしているからぶつかるのである。公道を占拠して迷惑をかけているのはその男の方である。
自転車が倒れた物音がすると、室内でずっと外の様子を伺っていた男は猛然と飛び出してくる。激しくその原因となった歩行者やドライバーを罵倒し、倒れて自転車に傷が付いたと主張し、住所や電話番号を聞き出す。後日、家に電話が掛かってきて、そこではじめて「あの自転車は50万円だ。修理にはかなりお金がかかる。ちゃんと誠意を見せろ」と2〜3万の現金を要求するのである。それがその男のシノギである。屈強な肉体を持った若者が、その肉体を使って労働するわけでもなく、このせこいシノギのために一日中室内で外の物音に耳を澄ませているのである。歩行者が少なくなる夜間は、大切な自転車は室内に収納されるのである。盗まれたらせっかくのシノギができなくなるのである。
こんなせこい男が大阪には存在するのだ。日本一せこい当たられ屋の話である。おっと、いちおうフィクションと断っておこう。
てへ
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