2004年06月17日(木) |
「野獣死すべし」〜老いた拳銃マニアの人生 |
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大阪市都島区の銀行で2001年10月に現金輸送車が襲われ500万円が奪われた事件で、大阪府警は6月11日、強盗殺人未遂と銃刀法違反容疑で、中村泰容疑者(74歳)を逮捕した。中村容疑者は名古屋市の輸送車襲撃事件と、貸金庫に拳銃や実弾を大量に隠し持っていた事件でそれぞれ公判中である。
中村被告をめぐっては、1995年7月に東京都八王子市のスーパーでアルバイトの女子高生ら3人が射殺された強盗殺人事件や、1997年から2001年にかけ大阪市内の銀行、信金で起きた、いずれも拳銃を使用した4件の強盗、現金輸送車襲撃事件などに関係があるとの情報もある。これらの事件はいずれも犯人は逮捕されていない。貸金庫で押収された38口径の自動式拳銃を試射し、薬きょうを鑑定した結果、八王子の事件の現場に落ちていた薬きょうと同じ傷がつくことが判明。さらに銃に付着していた皮膚片のミトコンドリアDNAの型も中村容疑者と一致した。捜査一課は犯行に使われた銃と断定。中村容疑者が事件にかかわったことを示す有力な証拠として追及する方針である。
オレはこの事件の報道を聞いていてふと、今は亡き大薮晴彦氏が創造した希代のダーティーヒーロー、伊達邦彦(「野獣死すべし」の主人公)を連想してしまった。銃器に異常なまでの関心を持ち、まるで趣味に没頭するように凶悪犯罪を遂行するその行動はまさしく「野獣死すべし」の主人公そのものだ。東大中退という中村容疑者の経歴も、大学院を卒業してアメリカに留学した伊達邦彦と重ね合わせることができる。
「自分以外に頼りになるのは、金と武器だけだ。金で買えない物に、ろくな物はない。稼げるチャンスがある間に稼ぎまくるのだ。そのため誰が死のうと知った事ではない。」「美しい女と、金のある女にしか興味はない。女に精神を求めるような間抜けには死んでもなりたくない」
かつてハードボイルドな生き方にあこがれた放蕩無頼の大学生だったオレは、気に入ったフレーズには線を引きながら一冊の新潮文庫、「野獣死すべし」をそれこそボロボロになるまで何度も読みふけったのだ。結局オレは無頼に徹することもできず、小市民となって両親の元に帰郷し、田舎で就職することとなった。まさかこの世に伊達邦彦のような生き方をする人間が実在してしまうことなど思いも寄らなかったのだ。
「野獣死すべし」は所詮、大人にとっての残虐な童話のようなものである。作り物の世界の中で伊達邦彦はヒーローであっても、現実に存在すればそれは醜悪な犯罪者でしかない。現実世界に降臨した伊達邦彦は、自己の欲望のために罪もない多くの命を奪ったただの外道だった。「野獣」はやはりこの世では死すべき存在であったのだ。
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