初日 最新 目次 MAIL HOME


あるこのつれづれ野球日記
あるこ
MAIL
HOME

2005年11月22日(火)
旅の思い出 北海道・帯広


 北海道の旅の中盤、帯広に立ち寄った。JR帯広駅に着いたのは、ちょうどお昼時。駅前の豚丼屋さんで昼ごはん。高いだけあって、カルチャーショック的うまさ!だった。

 午後から行動開始、馬の資料館を見たあと、バスで目的地・帯広三条高校へ向かった。2001年友人を見に行った甲子園で、偶然試合を見ていて、三条という名前が気に入った友人は熱心に応援をしていた。空はどんより、小雨がパラパラ。あまり期待せずに学校内へ足を運んだ。                                    
 グラウンドはとてもいい雰囲気だった。敷き詰められた黒土。外野には芝生が植えられている。グラウンドの横にはクリスマスツリーのような木々(木の名前を聞いたけど、失念)が並木道を作っていた。春、沖縄に行ったときも思ったけど、ここには異国がある。

 グラウンドでは練習が始まろうとしていた。グランドに入ろうとしていた指導者らしき男性に「練習を見せてもらっていいですか?」と了解を取り、フェンス前で見ていた。

 すると、背後で車の止まる音がした。ふり向くと、漆黒の品のいい車が止まっていた。素人の私でも“いい車”だとわかる。中から、人が出てきた。年輩の男性だった。偉いさんかな?私は逃げ出すことも出来ず、成り行きに身を任すことにした。すると、その男性が私に気づいた。「こんにちは、どなたですか?」。私は挨拶をすると慌てて、グラウンドに来た理由を答えた。すると、その男性は「そうですか」と行って、私をネット裏にある高床式の建物に案内してくれた。この人、何者?私はオドオドしながら後に付いていった。中には女子マネージャーが2人いて、男性と私にコーヒーを入れてくれた。こういうことはよくあるのだろう。マネージャーの手慣れていた。砂糖とミルク入りのコーヒーを飲みながら、部屋の窓から練習を見た。窓は広く、グラウンドが一望出来る。グラウンド内を飛び交うボールは白くて大きい気がした。雨天練習用のボールを使っているとあとで聞いた。

 男性は、前の監督だった。私は2001年の甲子園での試合を見ていたと言うと、「ちょうどボクが監督をしていたときだね」と声にトーンが少し上がった。「ここでこうして出会ったのも何かの縁だね」と、野球の話から人間とは何か、人を育てるとはどういうことかという教育的な話まで聞かせてくれた。後ろに控えていたマネージャーが聞き取れないほどの小さい声で何かを囁きあっていた。「またいつものが始まった」って感じかな(笑)。彼女たちが、このテの話をしんみり聞き入るようになるには、まだもう少し月日が必要かもしれない。

 20分ほど話したあと、グラウンド内を案内してもらった。甲子園に出てから作ったトレーニングルームや、並木道にリスがいて、監督をしていた頃には小屋を作って餌をあげていたことなど。これ以上にないグラウンド見学をさせていただいた。本当は、帯広には2日前に来ようと思っていた。ところが、予定していた日はイベント開催のためすでにどこのホテルも満室。やむなく、プランを変え、この日にしていた。思えば不思議な縁。目に見えるものと目に見えないものに感謝。

 帰りは、漆黒の品のいい車でホテルの側まで送ってもらった。用事で近くに行くからなんだけど。地元の豚丼やお菓子の話、観光スポットの話など、世間話もした。でも、やはり根本にあるのは野球。恥ずかしながら私は無知で、「高校野球の監督を何年くらいされたんですか?」と聞いた。すると。

 「34年。長くやりすぎたね。ん。長くやりすぎた…」

 返す言葉がなかった。私が生きてきた時間より長いんだ。年月って重い。

 グラウンドで話をしているとき、彼は私にこう言った。
 「何かあったときにね。なんていうか、人の情けとかそういうものを思ってもらいたいんだよ…」 

 自分の勝手な思いこみや不運で野球を嫌いになりそうなとき、いつもこの言葉を思い出す。