Desert Beyond
ひさ



 あおき

青木の家はパン屋だった。パン屋といっても焼いた傍から小売りするようなパン屋でなく、学校の購買部に卸すようなパン屋だ。同じ部活だったということもあり、あの四角い家にちょくちょく遊びに行った。遊んでいると西日が橙に射す夕方、青木のおばさんは業務用トレーに入れて様々なパンを持ってきたものだ。食べないとどうせ捨ててしまうので食べるだけ食べてしまいなさい、と言った。おかずパンもあれば甘いパンもあった。青木はパン屋を継ぎたいという気があるようには思えなかったが、青木のお父さんはそこそこ継いでもらいたいようだったように思える。青木は「妹が継ぐんじゃないのか」と人事のようにぬぼっと言った。その青木が今どうしているのか僕は知らない。あの四角い家が四角いままであるのか、あの家の横にパン工場が依然として建っていて朝はバターの匂いが漂うのかどうかも知らない。

「自分に同情するな。自分に同情するのは下劣な人間のすることだ」
と永沢さんは言った。


明日は春分の日で休日だと夜に知った。
休みでよかった。

2007年03月20日(火)
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