Desert Beyond
ひさ



 真夜中のシルキーヴォイス

一日中ごろごろとしていたので、
瞼が重くなってきてもなんだか素直に寝る気にならない。
あまり煩くないボーカルものを
小さめの音で流して短篇小説を一編読んだ。

高校生の頃、国語教師が
「男子が宮本輝などが好きだと言うと
文学好きの間ではちょっと疑われちゃう」
と言うような事を言っていた。
宮本輝の文章は柔らかい。
ハードな文学男子には軟弱なように取られる、
と言う意味合いだったと思う。

僕は宮本輝の文章は好きだ。
正当派で静かな風で、
柔らかい文章は登場人物が男でも女でも
全く違和感なしに自然に読ませてくれる。

ソウルを聴きたくなっても
大抵はレコードで実家に所有しているので聴けない。
どうしてもアイズレー・ブラザーズが聴きたくなって、
メロウな曲ばかり集めた企画もののコンピを借りた。
梅雨の暗い曇りの日、たまに冷蔵庫の音が聴こえる。
部屋はアイズレーのシルキーヴォイスで満たされた。

アリゾナの午後の乾いた空気。
ぼろアパートのまるで加湿送風機かのようなスワンプクーラー。
大音量で流れてくるアイズレーの"FOR THE LOVE OF YOU"。

カラスはおばあさんが大事にしているスープのスプーンをさらって行ってしまう。カラスは木のウロか何かに隠したけれど、後で自分がスプーンをどこに隠したか忘れてしまう。



2006年07月02日(日)
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