「ここも、やられちゃったんだな・・・。」
たくさんの人でにぎわい、華麗な歌声と旋律が大きく広く深く響き渡った場所。 あの大きく荘厳な劇場も、こうなってしまっては跡形もない。
「ここは壊して欲しくなかったんだけどな・・・。」
大切な場所だったから。 初めてこの想いに気づいたところだったから。 何よりも大事なものを
目を閉じて、記憶を辿る。
「ここが入り口。」
崩れ積み重なるがれき達に
「ここが受け付け、客席への入り口。」
足を捕らわれてしまわないように
「ここで曲がって、楽屋の入り口。」
中には彼女がいて
「奥にある扉を開けて・・・。」
その先には
「愛しのあなたは 遠いところへ」
・・・?
「色あせぬ永久の愛 誓ったばかりに」
この歌は・・・
「苦しいときにも 辛いときにも」
この声は・・・
「空に降るあの星を あなたと思い」
あの時の・・・
「望まぬ契りを 交わすのですか?」
瞼をあけて
「どうすれば ねぇあなた 答えを待つ」
扉を開けた、その先には・・・
「セリス・・・?」
流れるような金糸の髪を風にたゆたせて、微笑んだ。
「ここが舞台。」
あの時と同じように足を進ませて
「彼女は何度もテラスから顔をのぞかせては、側にいない恋人を想うの。 バルコニーに足を運んで、彼の幻影と踊って・・・ そこで思い出すのよ。」
止めて、こちらを見て
「彼の、愛。」
微笑む
あの時に負けないくらい、美しくて。 あんなに、あんなに悩み苦しませたはずなのに、 待っていてくれて。
「セリス。」
おかえりと言ってくれた。
「ありがとう。」
どうしたの急に、と笑われたけど 感謝せずにはいられなかったから。
君は、もう一度思い出させてくれたから。 何よりも大切な、この気持ち。 捨てようにも捨てられなかった、この想いを。
忘れないで、覚えていてと 言ってくれたから。
「セリス、歌上手いよな。以外に。」 「一言多いわよ。 でも・・・まさかばれないであそこまで上手くいくとは思わなかったし・・・ 楽しかったわ。」 「俺はハラハラしっぱなしだったけど? いつドレスの裾ふんづけて転ぶかー、とか。」 「あのね・・・ 私これでも元将軍なんだから! パーティーなんて星の数ほどあったんだから着慣れてるわよ!」 「あ、そうなの?」
ちょっとみたかったかも。
「ったく・・・ ・・・でも、もう一回だけやってみたいなー・・・なんて。」
できるよ、君なら。
その美しい容姿、美しい歌声は何人をも虜にしてしまうだろう。
でも、そんな時には・・・
「是非とも俺がドラクゥの役をやらせていただきたいもんだ。」
あの時、少し妬いてしまっていた自分がいたことを、 否定することはできないから
「ドラクゥ・・・ねぇ。 でもあなたには似合わないわね。 騎士ってタイプじゃないもの。」
・・・そんなにハッキリ言わなくても・・・。 俺の心は少し傷ついたぞ?
「ロックには・・・ あの時みたいにいきなり現れて、私をさらっていって欲しいわ。 心も一緒に・・・ね?」
少し驚いて、でもずぐ笑って
「まかせとけって!」
そっと腕をまわして、優しく抱きしめて
「絶対に離してやんないから。」
嬉しそうに頷いてくれる。
忘れ得ぬこの想い、いつまでも。 なくしてしまわぬよう抱きしめて。
「そういえばあの時、どうしてあんなこと言ったの?」 「は?」 「だから・・・みんな天井から落ちてきて・・・。」 「ああ、アレ・・・」 「どうして?その場しのぎ?」 「・・・ヒミツ。」 「なんで?」 「カッコ悪いから・・・」 「え?」
あんなにキレイなカッコして、 誰かに持っていかれやしないかと 不安になったからだなんて
「カッコ悪すぎ・・・。」 「??」
いつか、またいつか話してあげる。 そう、ここにもう一度旋律が戻ってきた頃にでも 話してあげるから。
もう一度、何度でも大きな声で言ってあげる。
君をめとるのは、この世界一のトレジャーハンター、ロック・コール様だということを。
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